助けを求めて――タラかスズキか、ビッグパック101個だ!
【これまでのあらすじ】
ドーナツ・トランペットの望みはただひとつ――王様になること!
ホームレスが起こした暴動の首謀者として警察に追われるドーナツ。
タイムリープで暴動前に戻りたくても、警察がパクドナルドを張っている。
追い詰められたドーナツは、『アイツ』に助けを求めるしかなかった。
ハンバーガー101個のタイムリープで、ドーナツはハチャメチャな人生を駆け上る!
魚屋に入ろうと足を踏み出す。
だが、気が付くと俺の足は、なぜか魚屋を通り過ぎていた。
「ん?」
歩いてきた道を戻り、また魚屋に入ろうとする。だが、また俺の足は、魚屋を通り過ぎていた。助けは欲しいが、頭を下げるのはどうにも我慢ならない。
行ったり来たり、行ったり来たり、行ったり来た――
「邪魔」
声がして振り返ると、ガリガリ眼鏡が立っていた。黒いビニールのエプロンをかけ、魚の入ったケースを抱えている。
「き、奇遇だな」
「奇遇? さっきから店の前をずっとウロチョロしてたけど」
「そうだ。ちょうど、魚を食べたいと思っていた」
「ご注文は?」
「ん?」
「魚、何にする?」
「そうだな。タラか、スズキか――ビッグパックだ」
リブのヤツは怪訝な目でこちらを見る。俺は財布から金を取り出した。
「ビッグパックを買ってこい。101個。今すぐだ」
「うちは魚屋。ハンバーガーが食べたいならよそへ行って」
「とにかく、買ってこい。金が足りないならいくらでも出してやる。なんなら、この店の今日の売り上げ分より払ってやってもいい」
「命令されるのは趣味じゃない」
リブは、魚を運び入れると、手際よく魚を捌き始めた。
「さっさと警察に行けば? 市役所前の暴動の首謀者なんでしょ」
「知ってるのか?」
「3日前から、ずっとニュースになってる」
「俺は暴動を起こせなんて一言も言ってない。ただ、市にコモドールホテル再建を訴えるよう言っただけだ」
「でも結局、暴動騒ぎを起こしたんでしょう」
「違うんだよ!」
気が付くと、声が大きくなっていた。
「暴動なんて馬鹿騒ぎは今すぐ止めてやりたい。でも、そのためにはビッグパック101個が必要なんだよ。だけど、警察の連中が店を張ってて自分で買うことも出来ない。だから買ってこいと言ってるんだ!」
「なんで?」
「え?」
「なんで暴動を止めるのにビッグパックがいるの? しかも101個」
「それは……言えない」
「なら、別にいいけど」
リブは、魚を捌き続ける。
「言わないと、協力できないってことか?」
「当然。ワケもわからないのに、犯罪者の頼みをきいて、ハンバーガーを買いに行ってやるバカがいる?」
俺は言葉に詰まった。
タイムリープが自分の武器になると気づいてから、俺は誰にも、この秘密を話してはいない。他人に知られれば、そいつが勝手にリープして、世界が書き換えられてしまうかもしれないのだ。
だが、今は四の五の言ってる場合ではなかった。時計は朝の7時を指している。暴動が始まったのは、朝の9時頃だったはずだ。2時間以内にタイムリープして暴動を防がなければ、マジで俺は刑務所送りだ。
何か、適当な嘘で誤魔化さなければ――。
「嘘は止めて」
俺の頭の中を見透かしたように、リブが言った。
「くだらない嘘をつくなら協力できない。その代わり、ちゃんと話して、こっちが納得出来れば、協力する」
淡々とした、静かな声。
眼鏡の奥の瞳はどこまでも真っすぐだ。
その姿を見るうちに、なぜか俺は答えていた。
「タイムリープだ」
リブの手が止まる。俺は言葉を続けた。
「他の誰にも言うな。ビッグパック101個を食べれば、俺は過去に飛べる。タイムリープってやつだ。なぜかは分からない。でも、3日前までなら戻れるんだ。俺は過去に戻って、暴動を止める」
リブは乾いた笑みを浮かべた。
「なにそれ。王様ジョーク?」
「マジだ。大マジだ。最初にリープ出来るようになったのは、小学校の音楽室で、お前に殴られた時だ。あの後、ビッグパック101個をやけ食いして、気が付いたら、また殴られた瞬間に戻ってた。それから、殴り返そうと何回もタイムリープして、その度に殴られた」
「それで嫌になって、私たちをアパートから追い出したってワケ?」
「その通りだ」
リブは、店の奥に入って行くと、電話の受話器をとった。
「どこに電話するつもりだ!」
「警察。アホらしくて付き合ってられない」
「本当だ! 俺を信じろ!」
「嘘にしてもバカバカしすぎる。タイムリープなんてふざけた話、誰が信じる? 音楽室で何度も殴られたって言うけど、私は一度しか――」
リブは不意に言葉に詰まった。
顔を上げると、まるで足が百本ある宇宙人でも見つけたように俺を見る。
そして、言った。
「……また、殴りやがって」
「何のことだ?」
「殴った時、そう言ってた」
「そうだったか?」
「一回しか殴ってないのに、変だと思って。でも、変なヤツだから気にしてなかった」
「何回も殴られすぎて、何を言ったかまでは覚えてないが」
「何回もって何回?」
「それは……393回だ」
「393?!」
素っ頓狂な声に、頬が熱くなる。
「黙れ!」
俺の声が店の白いタイルに跳ね返った。
「あ、いや……今のは、失言だ。だが、しかし……」
「ふざけすぎてる」
「え……?」
不意にリブが拳を差し出した。
「部屋で待ってて」
拳の先に、古びた鍵がぶら下がっていた。




