表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドーナツ・トランペット バーガーリーパー  作者: マサ・イワムラン
23/31

廃墟のコモドールホテルで夢を見る! そして悪魔は笑う

【これまでのあらすじ】


 ドーナツ・トランペットの望みはただひとつ――王様になること!

 マンハッタンの王を目指すドーナツ。忍び込んだ会員制高級クラブで、ゴミのようなホテル『コモドール』が売りに出ると聞きつけた!

 ハンバーガー101個のタイムリープで、ドーナツはハチャメチャな人生を駆け上る!


 コモドールホテルは荒れ果てていた。


 窓は割れ、すすけたレンガ造りの外観は時代遅れ。ロビーはかび臭く、絨毯は黒ずみ、照明の半分は切れていて薄暗い。片すみではドラッグの売人が堂々と取引している有様だ。

 トイレの腐った配管からは、茶色い水が出て来る。

 一階のショーウィンドウには板が打ち付けられ、壊れた自動ドアの外ではホームレスどもが寝転がり、売春婦たちが客を探して群がってくる。


 見ているだけで気が滅入る――そんなホテルだった。




 翌朝の九時――


 俺は再びコモドールの前に立っていた。

 だが、見ていたのはホテルではない。

 もっと先。

 

 コモドールの目の前にある、グランド・セントラル駅だ。


 グランド・セントラル駅は、ただの駅じゃない。

 ニューヨークという怪物の胸の奥で、絶えず脈打ち続ける“心臓”だ。

 ニューヨーク郊外のハドソン、ハーレム、ニューヘイブン各方面から、無数の通勤者がこの一点に吸い寄せられる。

 朝には、数十万の通勤者が血流みたいに押し寄せ、夕暮れには、一日の疲れを背負った影たちが流れ出ていく。ニューヨークに足を踏み入れる者はみんな、この心臓にいったん飲み込まれるのだ。


 実際、今この瞬間も、改札からは次々と人が吐き出されてくる。しかも、その大半がスーツの質も靴の光り方も一級品――金の匂いがする連中ばかりだ。


 コモドールはニューヨークの『顔』だ。立地条件は最高。

 もしコモドールを生まれ変わらせられれば、俺はニューヨークそのものを変えられる。

 これこそ、マンハッタンの王にふさわしい仕事だった。


   $ $ $


 俺はすぐに、コモドールの所有者であるポン・セントラル鉄道会社を訪ねた。社長のパルミジャーノは、キングスクラブの窓辺で話していた男の一人だった。俺はトランペット・オーガナイゼーションの社長として、マンハッタンへの進出を考えていると伝えた。


「特にホテル経営に興味があるんです。こちらでは、いくつか売却を検討されているとか」


「ええ。四軒ほど。おすすめはコモドールですね」


 相手は真っ先にコモドールを押してきた。

 俺をクイーンズの若造と見て、一刻も早く手放したい物件を押し付けるつもりだ。

 もちろん、こちらの目当てもコモドール。

 だが、気づかれれば気値段を吊り上げられる。


「コモドール? あれ古すぎますよ。直すだけで金が飛ぶ」


 渋って見せながらも、買う意志は示す。

 案の定、パルミジャーノは大喜びで、「値段は考えておく」と答えた。


 俺以外に、あんな哀れなホテルに目をつけるヤツはいない。

 コモドールは手に入ったも同然だ。

 鼻歌混じりにペン・セントラル社のエントランスを出た、その時だった。


「ご機嫌だな、小僧」


 王たる俺を小僧と呼ぶとは何者だ?


 ムッとして振り返る。

 立っていたのは、額の禿げあがった、どんぐり眼の男。だが、その眼光は鋭く、着ているスーツも時計も靴も、バカ高い金がかかっていると一目で分かる。


「昨日はキングスクラブからクモの巣まみれで逃げたと思ったら、今日は鼻歌か」


「誰だ、お前?」


「ロロだ。ロロ・コーンフレーク」


 聞き覚えのある名前だった。


「悪徳弁護士か。高すぎる報酬で、客から搾り取るって噂だ。お前のカモになる気はない」


「コモドールを買うつもりなんだろ?」


 ギョッとしてコーンフレークを見る。

 なぜ知ってる?


「その顔。まさかと思ったが、当たりだな」


「何の話だ」


「とぼけるなよ、小僧。全部、お前の顔に書いてある。腕のいい弁護士ってのは、相手の眉の動き一つで、頭の中を読むんだ」


 俺は慌てて、イースター島のモアイ像のような無表情を作る。

 だが、遅かった。


「コモドールとは、いい度胸だ。タイタニックのチケット買うようなもんだぞ」


 コーンフレークの野郎は、ニヤリと笑った。


「面白いヤツだ。成功報酬60%で引き受けてやる」


「何を言ってる?」


「お前がコモドールで手に入れる金の六割だ」


「ふざけるな! 弁護士の取り分が俺より多いなんて話があるか!」


「やっぱり買うつもりだったんだな」


「あ? あ、いや……」


「他に情報を流してやろうか?」


「貴様! あ、いや、いや、いや!」


 コーンフレークは、いよいよ勝ち誇ったように笑う。


「同じニューヨークでも、クイーンズとマンハッタンは別世界だ。俺を使え。俺ならお前を成功させてやれる」


 その笑みが、神のものか悪魔のものかは分からない。

 

 だが――どっちでもいい。

 俺を、高みに連れていけるならな。




 その夜――またも俺の知らないところで運命の歯車が回り始めていた。


 マンハッタンの裏通りで、若いカップルがいちゃついていた。

 激しい情熱的なキス。

 だが、次の瞬間、男の頭蓋骨を銃弾が打ち抜いた。

 女は絶叫し、逃げようと走り出す。だが、二発目の銃弾が無慈悲にその背中を撃ち抜き、女はアスファルトの上に崩れ落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ