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ドーナツ・トランペット バーガーリーパー  作者: マサ・イワムラン
22/31

キングスクラブから叩き出された夜、王宮が俺を呼んだ!

 ドーナツ・トランペットをお読みいただきありがとうございます。

 021話「新章・不動産編スタート!」に一部加筆を行いました。

 022話をより楽しんでいただける内容になっておりますので、

 お時間があればぜひご一読ください。


【これまでのあらすじ】


 ドーナツ・トランペットの望みはただひとつ――王様になること!

 父親の会社を継ぎ、クイーンズの王として家賃の取り立てに奔走するドーナツ。だが、それは本当に“王の仕事”なのか?疑問が膨らむ中、ついにマンハッタンの王になることを決意する。  

 その夜、街に響いた一発の銃声が、ドーナツの人生を変えてゆく――。

 ハンバーガーとタイムリープで、ドーナツはハチャメチャな人生を駆け上る!

 すぐに俺は、マンハッタンのアパートに引っ越した。

 女を連れ込むことなど、とても出来そうにもない狭苦しい部屋。だが、俺にはアパートの狭さを嘆くヒマもなかった。


「また、あの派手なババアか? いいから勝手に言わせとけ」


 クイーンズやブロンクスにある団地の管理人たちから次々と電話が入ってくる。やれ、苦情だ、水漏れだ、家賃の滞納だ。全く忙しすぎる。

 電話を切ると、背後から声がした。


「クイーンズの王がマンハッタンに引っ越したら、大変だろう」

 

 引っ越しの手伝いにきてくれた兄貴のジュニアは、ソファーに座ったまま、酒瓶を片手に笑った。最近、酒量がますます増えている。


「マンハッタンに引っ越したところで、クイーンズの事務所まで毎日通うんだろう? 通勤時間の無駄じゃないか」


「だから兄貴にクイーンズの仕事を手伝って欲しいんだよ」


「俺に不動産の仕事は向いてないよ」


「パイロットなんて、いくら続けても変わらないだろう」


 ジュニアは数年前からパイロットとして働いていた。世間ではエリート扱いされるかもしれないが、俺も親父も、その仕事に全く賛成できなかった。


「親父だって言ってただろ。パイロットなんてバスの運転手と変わらない。兄貴なら、もっと出来るはずじゃないか」


「人の命を預かるって意味じゃ、バスの運転手もパイロットも、大事だと思うけどな」


「けど、パイロットじゃ王にはなれない」


 ブレッドは答えるかわりに小さく笑うと、酒をあおった。


「で? お前はどうやってマンハッタンの王になるんだ?」


「簡単なことだ。いい土地を安く買って、高く売る」


「そんなに上手くいくのか? クイーンズじゃ親父のおかげで顔が売れてるだろうが、ここはマンハッタンだ。ドーナツ・トランペットなんて、誰も知らない、ただの若造だぞ」


「それでも、やってやる」


「どうやって?」


「それは――」




 その夜、俺は真っ白なスーツで、マンハッタンの街に降り立った。


 やってきたのは、今、ニューヨークで一番ヒップな高級会員制クラブ『キングスクラブ』だ。『風と共に去りぬ』で主人公のスカーレットが暮らす屋敷のようなコロニアル様式の白い建物の前に、黒塗りの車がズラリと並ぶ。


 キングスクラブの客は王族から政財界・芸能界・スポーツ界までの各界のセレブリティたち。まさに俺のためにあるようなクラブだ。

 堂々と入口へ向かう。

 と、俺の前に、嫌味な顔をしたドアマンが立ちふさがった。


「失礼ですが。当クラブは会員制となっております」


「ドーナツ・トランペットだ。もうすぐ、マンハッタンの王になる」


「は?」


「俺を入会させれば、クラブにも箔がつくぞ」


「失礼ですが。ご紹介者様は?」


「この俺が俺を紹介してやる」


 俺は笑ってドアマンの肩を叩くと、中に入ろうとした。


 ピピピピピーッ。


 すぐに甲高い笛の音が響き、警備の連中が駆け付ける。俺は抵抗も空しく、クラブの前の公道に叩き出された。


「王たる俺を入れないとは、愚かな奴らだ。後悔するぞ!」


 いくら叫んでも、人を見る目のない連中には猫に小判、馬の耳に念仏だ。

 だが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。俺は、ただ単に酒を飲んで、遊ぶために、このクラブに来たわけじゃない。


 ビジネスに最も重要なもの。それは情報だ。


 家賃の取り立てでさえ、情報は金になった。ビッグなディールを考えるなら、なおさらだ。キングスクラブのようなセレブが集まる場所には、金になる情報も集まる。俺は、なんとしてもクラブに入り、情報を手に入れる必要があった。


 叩き出された俺は、真っ白いスーツのままパクドナルドへと向かった。


「ビッグパック、101個だ!」


 一回でダメなら、もう一度チャレンジするまでだ。

 情報を制するものは、ビジネスを制する――

 そのために、必死に101個のバーガーを呑み下す。


 俺は、またもキングスクラブの前に舞い戻った。だが、小遣いを渡そうが、恫喝しようが、ドアマンは俺を突き出すばかり。


 何度かのタイムリープの後、うんざりした俺は、入口を突破することを諦め、裏口へと向かった。中に入ってしまえば、人を見る目のあるセレブたちが俺を取り囲んでくるだろう。


 裏口から侵入すると、広い庭に面したゴージャスなホールの窓から、ジャズとグラスが触れ合う音がこぼれてくる。忍び寄ると、不意に窓が開き、俺はとっさに窓の下に身を隠した。


「それで? 最近は俺が欲しくなりそうな土地が売りに出る予定はないのか?」


二人の男が葉巻を手に、ひそひそと話す声が聞こえた。


「ここだけの話だが、売却を考えているホテルが4つある。ピルトモア、バーグレー、ルートベルト、それに……コモドールだ」


「最初の3つは悪くない。でも、コモドールは勘弁だな」


「昔は良かったんだ。景気が悪くなってからは、周りはホームレスだらけ。正直、ゴミみたいなホテルで、俺も困ってるよ」


 男たちが笑う。

 だが、俺の鼓動は跳ね上がっていた。

 自分で自分の鼓動が聞き取れるぐらいだ。

 

 まさか――あのホテルが売りに出るのか?

 

 気が付くと、俺は茂みからエントランスの方に飛び出していた。葉っぱとクモの巣にまみれた俺に気づいたドアマンが顔色を変えた。


「お前、勝手に入り込んだのか? 今度こそ警察を呼ぶぞ」


「呼びたきゃ呼べ!」


 俺は正面から歩いてきた男をはね飛ばし、夜道を走り出した。

 ドアマンが倒れた男に慌てて駆け寄った。


「コーンフレーク様、お怪我はありませんか?」


 高そうなスーツを着たどんぐり眼の男が、俺の後ろ姿を見て呟いた。


「――山猿だな」


 だが、俺はそんな男のことなど知るよしもなかった。

 

 夜の闇の中に、古びた煉瓦造りのホテルが見えてくる。

 あれこそが――俺の新しい王宮だ。


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