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ドーナツ・トランペット バーガーリーパー  作者: マサ・イワムラン
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021 新章・不動産王編スタート!王なのに、召使と呼ばれて!

 25歳の誕生日、俺が親父の会社を継いだ日――。

 親父は、真っ直ぐな目で俺を見てたずねた。

「ドーナツ。王として、一番大事な仕事が何か分かるか?」


 1974年、ブルックリン――。

 

 古い団地のインターホンを鳴らすと、俺はすぐにドアの後ろに飛びすさった。ドアが開くと、ドアと壁を繋ぐわずかなすき間から相手を観察する。プロレスラーみたいにマッチョな男。だが、銃は持っていない。


「トランペット・オーガナイゼーションだ」


 レスラー野郎が扉を閉めようとする。俺は、すかさずドアの前に、ピカピカに磨き上げられた革靴を差し込んだ。


「家賃が三ケ月溜まってる」


「それがどうした」


「1ヶ月121ドル、3ケ月で363ドルだ。俺が回収に来てやったからには、すぐ払え。今すぐだ」


 クイーンズの王として一番大事な仕事。


 それは――家賃の取り立てだ。


 家賃収入で生活できるなんてお気楽だと思うヤツもいるかもしれない。だが、それは取り立ての厳しさをまるで知らないだけだ。家賃の取り立ては命がけ。同業者の中には、ドアが開いた途端に銃でズドンといかれたヤツもいる。


 このところのオイルショックで景気は最悪。ニューヨークの街はホームレスだらけだ。この団地にも、借りたぶんの代金を払うという倫理観すらないヤツらが溢れている。

 

 嘘、恫喝、逃走、居留守、暴力、泣き落とし――


 あの手この手で支払いから逃れようとする。

 そうした奴らの首根っこを押さえて、家賃を吐き出させるのは、並大抵のことではなかった。

 

 案の定、レスラー野郎は悪びれもせずに笑った。


「ぶっ殺されたいのか?」


「お前みたいな礼儀知らずの間抜けには、家賃のない家がお似合いだ」


 レスラー野郎が俺の襟首をつかんだが、俺は1ミリも怯まなかった。


「お前がドラッグの売人と会ってるのを見たヤツがいる。警察に連絡すれば、すぐに鉄格子付きのワンルームを用意してくれるぞ」


 団地の外に出ようとすると、マルチーズを抱いた派手なババアが話しかけてきた。アフロヘアにスパンコールのサンダル。ピンクのホットパンツ。全く好みじゃない。


「ねえ、隣の男が酷いの。ウチのベティちゃんを殺すって脅すのよ。何とかして頂戴」


「犬は禁止だ。ここで暮らしたきゃ、今すぐ捨ててこい!」


 ババアを振り払って外に出ると、俺の白いキャデラックの周りに集まるガキどもを、管理人のパーシこと、パーシモンが追い払っているところだった。


「パーシ。今回も上出来だ」


 俺は、パーシに小遣いを渡した。パーシは目端の利く男で、俺は日頃から住人たちの弱みを調べ上げるよう指示していた。


 下着泥棒、不倫、万引き、女装趣味――


 秘密と引きかえに、家賃を回収するのは手っ取り早い方法だ。

 だが、一仕事終えたはずなのに、なぜか心は晴れなかった。親父の会社を継いでからずっと、頭の片隅をチラつく言葉がある。


 これは――本当に王の仕事なのか? 

 その時だった――。


「召使のくせに、生意気だぞ」


 甲高い声に振り返ると、一人のガキが偉そうな目で俺を見ていた。首の伸びたTシャツ。すり切れたスニーカー。団地に住んでるガキの一人に違いない。俺はオツムの弱いガキにも聞き取れるように、一言一言、ハッキリと言ってやった。


「俺は、王だ。クイーンズの、王だ」


「違うね。パパとママが言ってた。俺のパパがアンタに金を払ってやってるんだ。だから、アンタは団地のゴミ掃除をしたり、窓を直したりするんだろ」


「俺は管理してるだけだ。この俺が、実際に窓を直すわけじゃない」


「でも、召使だ。なのに、こんなカッコイイ車に乗ってるなんて生意気なんだよ」


 ガキは汚い手で、白く輝くキャデラックのボディをペタペタと触る。胸の奥が冷たくなる。反論しようと口を開くが、なぜかすぐに言葉が出ない。


「俺は、王だ」


「召使だ」


「俺は……」


 気が付くと、勢いよく運転席のドアを開けていた。反動で、すっころんだガキが声をあげて泣きだす。その顔に排気ガスを浴びせかけ、俺はアクセルを踏み込んだ。



 

「ツインタワーを俺に売れ。今すぐだ!」


 1時間後、俺はワールドトレードセンターのエントランスで言い放った。

 受付の女は、世にも珍しい珍獣でも見るような目で俺を見る。警備員たちは俺の肩をつかむと、ゴミ袋でも捨てるみたいに外へと放り出した。

 頬を冷たい風が吹きつける。今の俺は、このマンハッタンで誰にも相手にされない、ただの『雑音』だった。


 だが、俺は摩天楼の上空を貫くようなツインタワーを見上げて誓った。


 俺が、この手で運命の歯車を回す。

 俺は――マンハッタンの王になる。




 その夜、クイーンズの街に銃弾の音が響いた。ブロンドの若い女が倒れ、暗がりから人影が走り去る。

 俺はまだ知らなかった。

 この事件が、俺の人生を大きく変えることを――。


不動産王編、はじまりました!

ブクマ・評価・感想で応援して頂けたら嬉しいです!

よろしくお願い致します!

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