ドーナツ・トランペット、登場!
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。
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殴ったのに、倒れていたのは俺だった。
小学校の音楽室の床に無様にひっくり返った俺の上に、冷たい声が響いた。
「もしも将来、世界がひっくり返って、あんたがアメリカ大統領になったって、絶対あんたに服従しない。わかった? ドーナツ・トランペット」
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1957年。ニューヨーク・クイーンズ地区――。
「ビッグパック、100個だ!」
地元の人気バーガー店、『パクドナルド』のカウンターで、俺はかみつくように言った。赤毛にモジャモジャ頭の店長・パクドナルドは、怒りの収まらない俺を見て、ピエロのようにへらへらと笑う。
「ドーナツ、やけ食いか?」
「小学校にクソみたいな女がいるんだよ。俺にあれこれ指図する。俺は、キー・フォレスタ小学校の王様だぞ」
「坊ちゃんお嬢ちゃんの王様か」
パクドナルドは、俺が通う私立小学校を小馬鹿にしてみせる。
「いくら王様でも、小学生に100個は無理」
「これは俺の勝負だ。絶対勝つ」
「今まで、ビッグパックを100個食ったのは、あの大食いプロレスラー、パイスタック・カルボナーラだけだよ」
「とにかく、今、ママからお金をもらってくるから……」
と、振り返った俺は、トレーを持って歩いてきた男にぶつかった。紙コップが宙を飛び、冷たいコーラが俺の白いシャツをべったりと濡らす。よれよれのダイオウイカ柄のシャツを着た冴えないおっさんは、俺の方を見ると、そのまま逃げるように店を出て行った。
「謝れよ! ったく、なんだ、あのクソダサいシャツ」
その時、カウンターの上にドンと金が置かれた。
「101個だ」