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7日目:動かない少年、動き出す他人


朝、目を覚ます。

隣の部屋からは物音ひとつしない。


わたしは嗅覚に神経を集中させる。

無臭。

それはつまり、「まだ生きている」ということだ。

死体はすぐに臭う。

だが、希望の死は無臭だ。

あの少年が殺したのは敵ではなく、自分の中の何かだったのだろう。


わたしはドアの前に朝食を置いた。

パン(固い)、スープ(冷めていた)、干し肉(塩分過多)。

栄養としては十分。

味などは気にしていない。

そもそも味覚とは、生き延びるか否かに関係ない機能だ。


彼の部屋に声をかけることも、ドアを叩くこともしなかった。

戦場に立てない者に檄を飛ばすのは、死体に檄を飛ばすのと同じだ。



わたしは外へ出た。

町は昨日と変わらない。


昼、気まぐれに酒場へ入る。

酒場という場所は、情報と酔いと絶望の混合溶液である。

ここでは誰もが喋る。

喋ることで自分の正気を確かめている。

だからこそ、酔っている人間の方が本音を語る。


わたしは静かに飲んでいた。

酒は薄い。

酔えない程度にちょうどいい。

この国の酒は、酩酊よりも社交に向いているらしい。


すると一人の男が声をかけてきた。

兵士だった。

肩章がそれを物語っている。

駐屯部隊の一員らしい。

よく喋る男で、わたしに興味があるというよりは、

「外の物語」に飢えているようだった。

この町にいては、世界が狭すぎるのだろう。


わたしは促されるまま話した。

旅をしていること。

少年と同行していること。

彼が「選ばれた存在」であること。

ついでに昨日の出来事も。


男は興味を示した。

少年と話したいという。


わたしは「明日にでも」と言って席を立った。


夜の空気は冷たい。

冷たいことに意味はない。

ただ現実がそこにあるだけだ。

少年が明日起きるかどうかはわからない。

でももし起きるのなら、それは彼が「自分を倒した敵に反撃する気になった」証左だ。


子どもでも、死にたくなることはある。

大人でも、立ち上がるふりをして生きている。

違いはただ、それを誰かが見ているかどうかだけだ。



観察を続ける。


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