73日目:ある男との邂逅
今日という日は、記録すべき出来事が多すぎてどこから書くべきか迷う。
けれどまず、最初に明記しておこう。
――我々は都市の内部へ侵入することに成功した。
当然、運任せの無謀ではない。
詳細な偵察と綿密な計画、そして何より、各人が自分の役割を全うした結果である。
我々は二手に分かれて行動した。
わたしと少年、そして兵士の男は地上ルートを担当。
花の魔女と獣人の男は、外壁の上部にある魔力の中枢――結界のエネルギー供給源の破壊を試みる。
囮となる我々の任務は、できるだけ都市防衛ゴーレムの注意を引くこと。
作戦開始の合図と共に、閃光弾を用いて数体のゴーレムを誘導。
それがまるで野生の捕食者を挑発するようで、緊張感が常に張り詰めていた。
同時刻。
遠く、外壁上部に目を凝らすと、
まばゆい光の筋とともに空気が揺れ、わずかに震えが走った。
――成功。
魔女と獣人の男が、エネルギー装置の破壊に成功した合図だった。
刹那、都市を覆っていた結界に“ひび”のような波紋が走り、ごく短い隙間が生まれる。
我々はその瞬間を逃さず、結界の綻びへと身を滑り込ませた。
そこから先はまさに“迷宮”だった。
都市は、生きているようだった。
家々が整然と立ち並んでいるにもかかわらず、
その隙間を縫うように、無数の監視機構と機械の番犬たちが徘徊している。
まるで都市そのものが、わたしたちの存在を“異物”と認識しているかのようだった。
やがて、追跡を逃れるために飛び込んだ一軒の古びた邸宅で、我々は一人の男と出会った。
歳は五十を超えているだろうか。
無精髭に、煤けた衣服。
それでいて、彼の目だけは不思議と濁っていなかった。
まるで何かを待ち続けていたかのような、静かな光を湛えていた。
「おまえたち……外から来たのか」
その問いかけに、わたしは警戒を解かなかった。
それはそこにいる皆同様だったが、男はそれ以上の言葉を待たなかった。
彼はただ、自分の椅子の横を軽く叩き「ここで少し休んでいけ」と言った。
敵意はなかった。
ただ、気配は異質だった。
それでも、今は追われる身。
我々は一度武器を下ろし、彼に勧められるままに、その場で短い休息を取ることにした。
彼が一体何者なのか。
ここで今何が起きているのか。
それは暫しの休息のあと、彼の口からきくことにする。




