72日目:結界都市
夜明けとともに、彼は戻ってきた。
薄い朝霧を裂くように駆け、音もなく地に降り立った獣人の男。
昨夜から行っていた偵察からの帰還だった。
集まった我々に彼は淡々と報告を始める。
都市外郭には、やはり複数のゴーレムが巡回している。
その動きに規則性は少なく、まるで都市そのものが生き物のように動いている、と。
そして何よりの問題は――
「都市全体に結界が張られている」ということだった。
この結界は、ただの結界ではない。
誰かの侵入を阻むために、明確な“意志”を持って張られたものだという。
見えない壁に触れた瞬間、空気そのものが押し返してくるような威圧感。
それが我々を待ち受けている、と。
報告を聞いたあと、一行の空気はしばらく沈黙に包まれた。
誰もがそれぞれの思考の中に沈み、言葉を探していた。
そんな中で、獣人の男はさらに言葉を続けた。
外壁の最上部――ちょうど中央塔の付近に、「強い魔力反応が集中的に観測された場所があった」というのだ。
それは、ただの装飾ではない。
明らかに“何か”を制御している構造物。
おそらく、それこそがこの結界の中枢――エネルギー供給源であろうというのが、彼の見立てだった。
結界を破るには、その中枢を断つしかない。
だがそれは、都市外郭に侵入するよりも遥かに困難で、つまりは真っ向から挑むことを意味する。
集めた情報と、住民たちが持つ都市構造の記憶を突き合わせながら、我々は作戦を練った。
それはもはや“潜入”ではない。
戦闘を含む突破作戦であることを、誰もが理解していた。
陽は静かに傾き、夜が再びあたりを包み始めた頃、我々の中には「覚悟」だけが確かに根を張っていた。
明日、都市を覆う壁に我々は挑む。
神殿の精霊が今も生きているならば、その声を確かめるために。




