71日目:静寂にひそむ絶叫
昨日避難した小集落の外れに、瓦礫と布を寄せ集めた即席のキャンプが築かれていた。
そこに身を寄せているのは、もとは都市の住民だったという人々。
彼らの表情には、安堵と不安、そして怒りが入り混じっていた。
我々は、まず彼らの話に耳を傾けた。
「ある日突然、街全体のエネルギー供給が止まった」
「しばらくして復旧したかと思えば、今度は都市全体が狂ったように動き出した」
「ゴーレムたちは、明らかに我々を敵として識別していた」
「中枢との連絡は完全に途絶えており、誰も原因を把握できていない」
断片的な証言ではあったが、全体像は徐々に浮かび上がってきた。
この都市は、中心にそびえる神殿の精霊の恩恵=魔力供給によって動いていた。
つまり、精霊の加護こそが都市の生命線。
それが突然、遮断され、再び動き出し、そして暴走した。
人々の話を総合するに――
「神殿で何かが起きた」
それが共通見解だった。
その言葉の重さが場の空気を一変させたのは、それからすぐのことだった。
我々の一行に「勇者」がいると知られるやいなや、人々は堰を切ったように詰め寄ってきたのだ。
「どうか、都市を……神殿を助けてくれ」
彼らの声には、もはや選択肢はなかった。
すがるような視線が、少年に向けられていた。
その場にいた誰も、断る理由を口にすることはできなかった。
たとえ、そこに待つのがどれほど危険な場所であったとしても。
我々は潜入を選んだ。
制御不能となった都市防衛機構をすり抜け、神殿の最奥へと至ること。
それが、今回の使命であると定めた。
少年は何も言わなかったが、その目は静かに燃えていた。
兵士の男は無言で装備の点検を始め、獣人の男は地図を確認しながら最も安全な侵入口を思案していた。
花の魔女は、魔力の流れを読むために静かに目を閉じている。
そしてわたしは、焚き火の傍でそれをただ見守っていた。
焦燥も、恐怖もある。
だが、誰ひとりそれを表には出さない。
おそらく、皆が気づいていたのだろう。
この“暴走”は、単なる機構の不具合などではなく、何者かの意思が関わっていると――。
明日、我々は「制御を失った都市」へと足を踏み入れる。
そこに待つものが一体何者か。
わたしにはまだ、判じきれない。
ただ願わくば、この筆が明日も動くことを――。




