62日目:輪郭
獣人国の王都に足を踏み入れるや否や、王が直々に我々を迎えに現れた。
その顔には、これまでにないほどの陰りが差していた。
わざわざ門前まで足を運ぶ王の姿に、何かが起きたのだと悟るには十分だった。
案の定、王の口から語られたのは、昨夜から続く不穏な連鎖の輪郭だった。
すでに王の耳にも残党の動きは伝わっているという。
彼の調べによれば、やはり――魔王崇拝者たちとクーデターの残党は結託しているとのことだった。
あのとき見た刃の紋様は、やはり偶然などではなかったのだ。
その報告を終えるより早く、兵士が駆け込んできた。
顔面蒼白という表現がこれほど似合う場面もあるまい。
彼の報せは簡潔だった。
――王族の少女が、連れ去られた。
前王の弟の娘。
彼女の乗った馬車が何者かに襲撃されたのだという。
生き延びた従者の証言によれば、襲撃してきたのは人間と獣人の混成集団だったらしい。
あまりにも分かりやすい構図。
だが、それこそが我々の心をざわつかせた。
誰も口に出さなかったが、全員が同じ結論に至っていた。
魔王崇拝者と、クーデター残党――あの連中の仕業だ。
少女の身柄は、単なる「人質」にとどまらない。
その存在は、王族の象徴であり、国の安定そのものでもある。
彼女が「連れ去られた」という一点だけで、王の立場が揺らぐ可能性すらあるのだ。
重苦しい沈黙の中で、ひときわ強い声が上がったのは獣人の男だった。
彼の瞳には、これまでにないほどの烈しさが宿っていた。
もともと少女とは旧知の仲だったらしい。
言葉にせずとも、その表情がすべてを物語っていた。
「俺が行く」と彼は言った。
王はほんの一瞬、目を伏せた。
そして頷いた。
――その静かなうなずきが、全ての許可を意味していた。
かくして我々は、王に代わり少女救出に向かうこととなった。
崇拝者と残党が結託しているという確証。
混成部隊による襲撃。
攫われた王族の少女。
そして、追いかける我々――
徐々に事態の規模は膨れ上がっている。
それでも、足を止める者は誰一人としていない。
今はただ、目の前の少女を救い出すこと。
それだけが、我々の使命だ。




