59日目:成長
少年、復活す。
昨日まで熱でうなされていたとは思えないほど、今朝の彼は元気だった。
起き抜けにまず「腹減った」と言ったあたり、回復具合は万全とみていいだろう。
……こうしてみると、回復のバロメーターがわかりやすいというのも、彼の長所のひとつだ。
とはいえ、すぐに次の地へ向かうのは流石に無理がある。
本人は「もう大丈夫だから行こう」と言い張っていたが、我々の誰ひとりとしてそれに同意する者はいなかった。
結果、今日は引き続き“休息日”とすることに。
とはいえ、いつまでも宿に留まっていては財布が寂しくなる。
ということで、今日はギルドで軽めの依頼を受けることになった。
留守番は、わたしと少年。
……二人きりになるのは、久しぶりかもしれない。
本当に何気ない時間だった。
兵士の男が置いて行ったメモを見ながら一緒に昼食を作ったり、市場で買ってきた安価なおやつを分け合いながら、これまでの旅のことを振り返って話したりした。
最初の頃は、どう見ても何も知らないただの子どもだった。
剣も握れず、ケガをして大粒の涙をこぼし、知らないことに知らないまま突っ込んで――
今でも似たようなことはしているが、それでも「今の彼」は、あの頃とは違う。
夕方、窓から差し込む光が傾き始めたころ、何の気なしに、わたしは彼に尋ねた。
「帰りたい?」
ほんの一瞬、彼は驚いたような顔をした。
けれどそのあと、ふるふると静かに首を振った。
「帰るのは、全部終わった後だよ」
言葉にしたのはそれだけだったが、そこに宿っていたのは、年相応の不安や迷い、そして――
それでも前に進もうとする“意志”だった。
勇者に必要なのは、剣技でも魔法でもないのかもしれない。
それは、こうして選び取っていく小さな決意の積み重ね。
いつか彼が本当の“勇者”になるその時まで、この旅路の記録を、わたしは書き続けようと思う。




