表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/93

5日目:壁と堀と信仰の防衛線


今日、比較的大きな街に到着した。

名前は長く、覚える価値は薄いので割愛する。


街は壁に囲まれていた。

高く、厚く、さらにその外側に水堀がある。

理屈としては「堀が魔物の侵入を防ぐ」とのことだが、空を飛ぶ魔物には無力だし、泳ぐ魔物にはただの道である。

つまりこれは自己満足か、さもなくば民衆の不安を抑えるための催眠術だ。

安心とは「安全であること」ではなく、「安全だと思い込ませること」で成立する。


門番の兵士に通行許可を求めたところ、王家の印章を見せた瞬間に態度が豹変した。

人間の脳は便利だ。

権威に触れた途端、慎重と卑屈を履き違える。


街に入ってすぐに気づいた。

雰囲気が張り詰めている。

祭りでもなく、疫病でもなく、これは恐怖による沈黙だ。

人々は急ぎ足で家に帰り、露店は軒並み閉まっている。


この国の宗教において「聖域」とされる神殿が魔物に占拠されたのだという。

つまり神の家が魔の巣と化したわけだ。

信仰心の強い者にとっては最悪の背教であり、弱者にとっては死の前兆に等しい。


聞き込みによれば、数日前、突如として神殿に禍々しい瘴気が立ち込め、内部に魔物が現れたとのこと。

聖職者は逃げ出し、兵士は手出しを躊躇している。

理由は単純だ。

「聖域は壊せない」という思い込みが、実際の行動を鈍らせている。

つまり、「神殿を守る」という幻想が、現実を化け物に明け渡したということだ。

これは皮肉ではない。

現実である。


少年は黙って話を聞いていた。

拳を握り、唇を噛み、まるで何かに責任を感じているような顔だった。

彼がなぜそこまで背負うのか、わたしには理解できない。

自分が責任を持つべき世界など、誰に与えられたのかも曖昧なのに。

だが、人は「自分が守れるかもしれない」と錯覚したとき、喜んで檻に入る。

それが希望という名の牢屋だ。



明日、神殿へ向かう。

勇者は決意を固めたようだが、決意が勇気と同義だと思っているのなら、それは幻想だ。

決意とは、自分に背を向けることだ。

勇気とは、自分を見つめたまま進むことだ。

そして彼にはまだ、自分というものが無い。


ただ、無いということは、何よりも強いのかもしれない。

空っぽの器ほど何でも入る。

毒も、薬も、神も、魔も。


明日の結果次第で、彼の中に何が注がれるか──観察を続ける。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ