52日目:次の層と新たなる敵と
この塔の構造に法則性があると仮定するなら、昨日が「腐臭と死の層」なら今日は「灼熱と破壊の層」とでも呼ぶべきだろうか。
我々は、休息地で十分な眠りと最低限の栄養補給を済ませた後、再び転送門を潜った。
瞬間、視界を埋め尽くすのは、赤黒い岩肌とそこかしこを流れる溶岩の帯。
空気が重く、焦げた鉄と硫黄の混ざったような匂いが喉を焼く。
この層も、我々に優しい場所ではない。
さて、現れた敵はスライム。
赤黒い半透明の体に、時折、内部でマグマのようなものが蠢いているのが見えた。
──と、この時点である程度の警戒が必要であるのは当然のことだが、少年の脳裏には「昨日より弱そう」という文字しか浮かばなかったらしい。
おそらく彼の目には、
「ぷよぷよしてるだけの敵」
そんな印象だったのだろう。
迷いなく剣を構え、一体に向かって駆け出した。
──その瞬間、花の魔女と獣人の男が素早い動きで彼の後を追った。
魔女の防壁が展開され、獣人の男が少年の肩を引っつかんで止めた。
だが既に少年の剣から出た衝撃波はスライムを貫いていた。
静寂。
次の瞬間、スライムの体が光り、そして──爆ぜた。
爆音、熱風、飛び散る火の粉。
かろうじて直撃は免れたが、防壁がなければ少年は今ごろ笑って炭だっただろう。
「あいつはマグマを内包していて、強い衝撃で爆発する」
口をパクパクさせる少年をよそに、獣人の男が冷静に状況を説明する。
──つまり今回、近接武器を振り回すタイプの我々は、概ねただの荷物、というわけだ。
この層の主役は、距離を取って戦える者。
わたしも剣を収め、魔女の結界の後ろにまわる。
無念ではあるが、無意味に焼かれるほどわたしは愚かではない。
少年は、しばし茫然としていた。
己の無知に愕然としたのか、失敗への悔しさか。
だが、意外なことに──彼は立ち止まらなかった。
「マグマを内包してる、なら……」
何かに気づいたらしい。
彼は目を閉じ、ゆっくりと剣を構え直した。
その刃が、深い藍色の光を帯びていく。
精霊の力。
──水、だ。
その剣を地面に突き刺す。
瞬間、剣を中心に波紋が広がった。
それは“湿度”でも“冷却”でもない、“濁りなき清水の圧”だった。
マグマスライムたちは、波にのまれ、動きを止め、
そのまま硬直したまま、壁にぶつかって砕けた。
見事だった。
昨日の混乱が嘘のように、今日の彼は冷静で、そして強かった。
敵がすべて沈黙した頃、再び光が我々を包む。
転送、そしてキャンプへ。
デジャヴのような流れではあるが、今はこの「無事に戻れるループ」に感謝すべきだろう。
今回もひとまず生き延びた。
なのでここまでを、今日という一日として記す。




