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48日目:兆し

晴天。

ようやくの移動日。


とはいえ、ただの移動日ではなかった。

少年が「戦いたい」と言い出したのである。


より正確には、「経験を積みたい」とのことだった。


剣を握って一ヶ月半ほど。

最初の頃の彼は、まるで刃物を振り回す子鹿のようだったが、今では少なくとも“当たれば斬れる”程度の様にはなった。

骨格の成長は未だ未完だが、筋肉のつき方や構えは多少様になってきたように見える。

だが、それはあくまで表面上の話。


実のところ、敵を屠れているのは彼自身の力量というよりも、彼に宿る精霊の力――つまり“外部的要因”の割合が大きい。

本人もそれを理解している。

そのうえでの、「自力での戦闘経験を積みたい」という発言だとすれば……まあ、悪くはない判断だろう。


というわけで、本日はおなじみ国営ギルドに立ち寄ることとなった。


今回の討伐対象は、初級種の魔物。

牙と爪を使った集団戦を得意とする。

個体ごとは脅威ではないが、群れた途端に厄介になるいわゆる“数で押すタイプ”だ。


戦闘は、少年の先陣から始まった。

飛び込んでいく彼に、四方から飛ぶ大人の指示。


獣人の男は「周囲の数と位置を把握しろ」と声を飛ばし、

花の魔女は「敵の属性を見極めなさい」と冷静に、

兵士の男は「間合いに気を配れ、突っ込みすぎるな」と、ほとんど監督のような調子で。

そしてわたしからは、「手に負えないなら黙っていないで周りに指示を出しなさい」という、いちばん面倒な助言を。


少年は一瞬だけ目を見開いて、しかしすぐに頷き、それぞれの助言に応じようと懸命に動いた。


斬撃の軌道はまだ荒い。

足運びも軽いようでいて、踏ん張りがきかない。

それでも、敵を見逃さず、耳を使い、言葉を覚え、数秒先のことを考えようとする姿勢があった。

――つまり、成長の兆しというやつである。


討伐が終わる頃には、彼はすっかりへとへとになっていた。

肩で息をしながら、ぐったりと地面に腰を下ろし、それでもこちらを見て「次は……もう少しうまく……」などと口走っていた。



帰り道、彼は我々の助言をぶつぶつと反芻していた。

頭を抱えたり、ひとりで納得したり。

忙しい少年である。


わたしはといえば、それを少し後ろから眺めながら、脳内で「こうして若者は一歩ずつ成熟していく」などという教育的文句を反芻していた。


言わなかったが。

そういうのは、言わずに見ているのが一番いい。


今日の戦果:魔物討伐、小規模。

今日の副産物:少年の肩の筋肉痛、おそらく明日あたり顕在化予定。


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