4日目:野営、食事、生活技術(※少年は見ているだけ)
4日目。
村を出て街道を歩く。
昼までに次の集落に着く予定だったが、道が崩れていた。
旅人を騙す地形は山ほどある。
たいてい魔物より非道で、風情もない。
やむなく森を抜けて進路変更。
木陰は涼しいが、方角を見誤るとただの墓場になる。
今日の我々は、幸運にも墓場の墓標にならなかった。
それだけの話だ。
陽が傾き始めた頃、川沿いの小さな空き地にて宿営。
寝床に求める条件は三つ。
1:上から何も落ちてこないこと
2:下から何も這い出てこないこと
3:横から何も来ないこと
このすべてを満たせる場所などほとんど無いので、基本的に妥協するしかない。
今日妥協したのは「横」である。
つまり獣道が横切っているが、「来ないことを祈る」で済ませる構えだ。
◆今日の料理:川魚と野草の包み焼き
材料
川魚:2匹
野草(毒味済み):ひと握り
塩(前の村で購入):少々
川の泥:適量(包むため)
手順
1)魚を捕る。少年は棒を振って追い立てた。わたしが素手で掴んだ。よって戦果は9:1である。
2)内臓を抜き、塩を擦り込む。血の臭みは罪の臭みとよく似ている。早めに消しておくべき。
3)野草を刻み、魚の腹に詰める。食物繊維と香りのカモフラージュ。
4)泥で包み、焚き火の隅に投げ込む。焼き時間は任意だが、「煙が臭くなったら完成」が目安。
5)取り出して泥を割る。失敗すると皮ごと剥がれるので、骨を避けながら食べる。
少年は一口食べて「うまい」と言った。
あの年頃は、腹が満ちれば味などどうでもいい時期だ。
あるいは、これしか食べるものがないという諦念が、味覚を歪めてくれたのかもしれない。
寝床は落ち葉と草を敷いた簡易の寝台。
防虫のため、周囲にハーブを撒いた。
効くかは知らない。
祈りに近い。
祈りが通じなければ、次は火を撒くしかない。
火力は文明の証だ。
わたしは木の根に背を預けて眠ることにした。
勇者は、やたらと星を見上げていた。
「世界は、なんでこんなに広いんだろう」と呟いていた。
答えは簡単だ。
「測った奴がそう決めただけ」だ。
火は消えた。
肉の匂いは風に乗って流れた。
明日、この匂いを辿って何かが来るかもしれない。
来なければそれまで。
来れば、それもまた旅のイベントである。