46日目:良く効くポーションはとても苦い
今日は移動なし。
理由は明白、わたしの肋骨である。
骨の一本や二本折れていても歩くことはできるが、剣を振るには骨格の完備が不可欠だそうだ。(第5皇子たちと戦っているときは気にならなかったが、今になって思い出したように痛み出した)
よって本日は「休息日」という建前のもと、「治療日」という現実に身を委ねる羽目になった。
問題はその治療法だった。
花の魔女が取り出したポーションは、例によって信頼に足る外見をしていなかった。
灰緑色に濁った液体は、どろりと粘性を帯びており、視覚からして警告を発している。
鼻を近づけた瞬間、腐った草と獣の毛皮を煮込んだような匂いに襲われ、わたしは即座にこの治療方針に対し再考を促した。
だが、そこに割って入ったのが、兵士の男だった。
彼はわたしを見て「俺に任せて」と言って、次いで妙な作業に取りかかった。
■本日の特別処方:精霊骨修復ポーションのゼリー包み(服薬補助・携行用)
用途:極めて不味なポーションを飲ませる必要がある時に。
対象:肋骨が折れているのに「飲みたくない」と言い張る成人女性など。
材料(1人分)
花の魔女製ポーション:小瓶1本
携行用寒天シート:ひとかけ
野草(清涼系、例:ミント・レモンバーム風):数枚
野草の根(苦味緩和用、例:甘草風):スライスで2〜3片
炭粉:ごく少量(見た目の中和用)
薄膜糊(植物性の可食のもの):1枚
水:50ml(寒天溶解用)
【手順】
小鍋に水を張り、乾燥寒天シートを入れて加熱。弱火でじっくり溶かす
溶け始めたら刻んだ野草の葉と根を投入。香りを立たせるため軽くかき混ぜる
見た目対策として、炭粉を一つまみほど加えて混ぜる
ポーションは薄皮シートで包み、手のひらサイズの小包状に整える(※破れやすいので手早く)
型に寒天液を少量流し込み、中央にポーション包みを配置
残りの寒天液を注ぎ、包みが見えなくなる程度に覆う
冷やす手段がない場合は自然冷却で10分程度置く(今回は少年と水の精霊の力を借りて冷却)
曰く、「味を消すことはできないけど、喉を通るまでの時間は短縮できる」とのこと。
戦場で薬を使う際に編み出した応用技術らしい。
不本意ながら、わたしはそれを口に含んだ。
たしかに喉を通る時間は短く、苦味の到達は遅延された。
味は最悪のままだったが。
副作用として高熱と悪夢はあった。
骨が内側から再構築されるような、奇妙な熱感もあった。
だが、それは確かに効いた。
わたしの肋骨は、もとに戻りつつある。
今日は誰もが自由に過ごしている。
少年は林の中で気配を探り、獣人の男は静かに矢じりを削り、兵士の男は次の食事の準備をしている。
花の魔女は無言でハーブをすり潰している。
誰もが自分の役割を果たしながら、誰にも急かされず、一日が過ぎていく。
そんな日も、あっていい。
むしろ、必要だ。
明日になれば、また歩き始めるだろう。
敵と遭遇し、剣を抜くことになるかもしれない。
だが今日だけは、折れた肋骨と一緒に、安息という名の贅沢を味わっておく。
──できれば、次のポーションは、果物味でお願いしたい。




