44日目:夜明けと玉座
決行の朝はあまりに静かだった。
鳥すら鳴かず、空も白けた顔でこちらを見ていた。
排水溝からの侵入。
あらゆる戦術の中でも、泥と臭気にまみれるそれを選んだのは、他でもない少年自身だ。
彼とともに、這いつくばるようにして城下町の腹をこじ開けた。
呼吸するたびに腐敗と鉄錆の匂いが肺に貼りつくが、目的は一つ。
あくまで派手に、手広く、乱すこと。
兵舎の梁に火を点けたのは少年だった。
倉庫の屋根を落としたのはわたし。
遠くで魔力放出の光と弧を描いて飛ぶ火の玉がちらつく。
花の魔女と獣人の男だろう。
向こうも随分派手にやっているようだ。
音と火と怒声が混線する中で我々は潔く撤退し、開いた門から現れた精鋭部隊に後方の混乱を託した。
我々は、さらに深くに進む。
玉座を目指す第一皇子たちと合流し、謁見の間になだれ込んだ。
そこにいたのは、第五皇子とその背後に佇む“異形の男”。
仮面のように笑うその男こそが、第五皇子の企ての首謀者だった。
彼はずいぶんと饒舌だった。
自分たちの目的は獣人族の地位向上であること。
そのために古の戦争の遺産――古代兵器を再起動しようとしていること。
そして起動に必要なエネルギーとして精霊の力と人間を燃料としていること。
我々が知りたかったことのすべてをドラマチックに語ってくれた。
我々が止められなければ、焦土が残るだけだった。
道を阻んだ兵たちは、もう「人間」と呼んでいいかどうかも怪しい。
あれは忠誠というより呪いだった。
剣と炎と力と命でようやく辿り着いた最奥。
だが、遅かった。
兵器は目を開け、音を鳴らし、立ち上がろうとしていた。
――が、命令は届かない。
理由は単純で、皮肉だ。
“王の命令”でなければ、兵器は動かない。
玉座に座るだけでは、王にはなれなかったのだ。
第五皇子は王たらんとし、兄の命を奪おうとした。
少年がそれを止めに入る。
だが、第一皇子は静かにそれを制した。
彼の言葉は穏やかで、揺らぎがなかった。
「彼のことは、僕に任せてほしい」
我々は頷き、魔王の手下と相対する。
戦いは――惨憺たるものだった。
誰も勝者には見えなかった。
城下町では旧友が刃を交え、倒れ伏し、玉座には「優しい弟」だった男の屍。
何かを言おうとして、誰も言わなかった。
ただ、夜が明けた。
それが全てだった。
第五皇子の謀反は、こうして終わった。
何かが始まるより前に、いくつもの終わりが重なった朝だった。
明け方の光は、妙にまぶしかった。




