43日目:静かな夜と決意
少年たちの奪還はおおむね成功した。
全員生きて戻った。
それだけで上出来と言うべきかもしれない。
ただし、問題が一つ。
否、致命的な一つ――我々は第五皇子に対して明確に刃を向けた。
その意味は重い。
今や我々は獣人国における明確な国賊である。
彼らにとって正当な処刑理由を自ら与えてしまった。
こちらの正義があちらでは反逆にすぎないのだと、改めて知らされる。
少年たちの話によれば滝壺に飛び込んだ後、流され、偶然にも城門近くにたどり着いたという。
が、運悪くそこで衛兵に捕らえられた。
状況の説明もないまま、ただ「人間」というだけで、地下牢に送られたそうだ。
あの城門の内側は、既にそういう場所になっていたということだ。
さて、ここからどうするか。
第一皇子が提示した次の一手はこうだ――
第一段階は、城門内部につながる通風孔からの潜入。
通風孔から体格の小さな者を先行させ、内部から扉を開放。
この段階は偵察と攪乱が主目的。
敵の注意を内部へと逸らす。
第二段階、本隊による一点突破。
第一皇子を含む本隊が、中央門を突破。
敵を正面から押し返しつつ謁見の間を目指す。
第三段階は、攪乱と分断の同時進行。
内部からの騒動に呼応する形で、外周では陽動隊の動きも開始。
多方面への注意を促し、護衛戦力を希薄化させる。
第四段階、第五皇子の討伐。
謁見の間での直接対決。
第一皇子自らがこれを討つ。
最終段階は、王都の掌握と宣言。
即位の宣言によって、新政権を明示。
抵抗の芽を摘む。
準備の最中、第一皇子が我々のもとにやってきた。
いつもの落ち着きとは違う、わずかに熱を帯びた眼差しだった。
彼は、
「弟は争いを好むような男ではなかった。幼いころは、剣よりも本を好んだ。
なのに今の彼は、誰よりも多くの血を流させようとしている。
何が彼を変えたのかは、まだわからない。
だが、どんな理由があろうとも、今の彼の行いは許されるものではない。
だから私は、必ず彼を討つ」
と言った。
言葉には憎しみではなく、決意があった。
わたしは黙って頷いた。
それが最善かどうかはわからない。
けれど、王の座を取り戻すのは、もはや彼にしかできないことだった。
決戦は明日。
夜は静かに更けていく。
血の匂いはまだない。
風だけが、遠くから吹いていた。




