39日目:手掛かりと獣の国と
起床時間。
身体のあちこちが文句を言っている。
特に肋骨周辺がひどく喧しい。
だが、わたしは寝ていられるほどおとなしくできる性格ではない。
医者の「三日は安静に」と言う言葉は刑罰に等しい。
だから、わたしは起きた。
案の定、助けてくれた獣人の男は苦虫を噛み潰したような顔をしてこちらを見ていた。
医術の心得があるのかは知らないが常識はあるらしい。
わたしがそれを無視したのだから怒る権利はある。
だが、怒るより先に聞いてほしい。
わたしは、何が起きているのかを知らずにじっとしていられるほどできた人間ではない。
というわけで、尋問タイムを設けさせてもらった。
ここはどこか、あなたは何者か、敵か味方か、そして──仲間を見ていないか。
彼は寡黙な部類の男だが、実に真面目に答えてくれた。
・ここは獣人国の端、いわゆる人間領との境界らしい。
・彼はこのあたりの狩人。一匹狼。
・敵でも味方でもない──今のところは。
・倒れていたのはわたし一人。あとは見ていない。
要するに、「運が良かったな」と言いたいらしい。
運だけで生き延びてきたわけではないつもりだが、今回は否定できない。
午後になり、彼が狩りから戻ってきた。
手に何かをぶら下げている──ぼろぼろになった布製の手袋の片方。
見覚えがあった。
わたしの記憶が確かなら、あれは少年のものだ。
彼曰く、「獣人国の城門近くの川辺に落ちていた」らしい。
水に濡れて匂いが薄れていたが、わずかに城門方向に伸びていたと。
つまり、誰かが生きてそこまでたどり着いたということだ。
少なくとも、誰かが流された少年の持ち物を手にしていた。
それだけで、救いだった。
わたしは安堵した。
骨の痛みさえ、一瞬忘れるほどには。
だが、彼は言った。
「生きた状態で全員を取り戻せるかはわからない」
言葉に毒はなかった。
だが、毒よりもよほど質が悪い現実味があった。
人は、無慈悲なことを静かに口にできる。
獣人もまた、例外ではないらしい。
それでも──わたしは行く。
肋骨が折れていようが、膝が笑っていようが、だ。
わたしは取り戻すために歩く。
その価値があると、わたしは信じている。




