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3日目:村の入口にて、初の戦闘記録


朝、少年はまだ夢を見ていた。

寝言で「ごはん……」と呟いたので、たぶん戦闘の夢ではない。

どこまでも呑気なことである。


礼拝堂を出てさらに南下すると、小川と畑を抱えた村が見えた。

煙突から細く煙が上がっている。

そこに生がある証だ。


村の入口には、人ではないものが立っていた。

犬のように四足で、猿のように腕が長く、歯はむき出し。

皮膚は剥がれて赤黒く爛れ、瞳は空っぽのまま、こちらを見ていた。


少年が「魔物だ」と言った。

大発見のような口調だった。

わたしは剣を抜き、確認した。

確かに魔物だった。

襲うし、吠えるし、匂いが腐っていた。


ひとまず首を落とした。

動かなくなったので、判定は勝利。

少年の初戦果である。

ただし彼は何もしていない。

わたしの背後で、剣を持って立ちすくんでいただけだ。


血が跳ねたが、誰も咎めない。

村人たちは戸口に隠れ、窓の隙間からこちらを眺めていた。

感謝も拒絶もない。

助けられたとも思っていないのだろう。


そもそも、助けるとは何か。

命を繋ぐ行為なのか、それとも死ぬ順番をずらすだけか。



村の中にも魔物がいた。

三体。

家畜を引き裂いた後、民家に入り込んでいた。


わたしと勇者で順に処理する。

いや、順、というのは正確ではない。

ほぼわたしである。

勇者は一度、剣を振った。

切っ先が床に刺さった。

木材に勝ったが、敵には届かなかった。


最後の一体は、乳飲み子を抱いた母親に噛みついていた。

少年は目を逸らした。

わたしは踏み込んで、脳を潰した。


母親は死んでいた。

子供は泣いていた。

たぶん元から泣いていた。

泣くのは生きている証拠だ、と言う人もいるが、あまりに安っぽい標語だ。

泣くことの先にあるのは死だ。


村長を名乗る男がやってきて、礼だけ述べた。

食事と寝床を提供すると言ったので、断らなかった。


少年は夜、火の前でうずくまっていた。

「僕はこれからもっと殺さないといけないのか」と言った。

「そうだ」と答えておいた。

問いには正直に答えるべきだ。

子供だからといって、安易に優しさという毒を与えるべきではない。


なお、魔物の死体は回収され、翌朝には穴にまとめて投げ捨てられていた。

供養も墓標もなし。

人間でも魔物でも、死ねばただの肉だ。


明日は次の街へ向かう。

生き延びることが旅の目的ではないが、死んでしまっては物語が終わる。

一日でも長く、一歩でも先へ。

せめて、彼がどこまで辿り着くのかを、この目で見届けたい。



観察を続ける。


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