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30日目:境界の前に立つ者たち

今日は森の入り口まで到達した。

目的は、その奥深くに存在するという「大地の神殿」である。


場所は谷に沿って続く切り立った岩場。

その左右に、等間隔で立てられた木の棒が風に揺れていた。

最初は風景の一部かと思った。

だが近づくにつれ、棒の先に引っかけられているものに目がいった。


服。

カバン。

一部は破れ、泥に汚れ、干からびていた。


それは、ここが「通過点」ではなく「終点」として機能した証拠だ。

生者の気配はなく、痕跡だけが静かに朽ちていく。

まるでそれぞれの棒が、持ち主の墓標であるかのようだった。


誰かの痕跡の間を抜けると、入り口には憲兵が待機していた。

彼らの口ぶりは簡潔だった。

「立ち入り禁止」


少年は当然のように例の文言を試した。

「我々は国から派遣されている。証明書もある」


勇者が時に便利屋となることは前回学習済みである。

それを交渉の材料としようとしたのだ。


――しかし、彼らの顔色一つ変わらない。

「それでも、入れられない」とだけ告げられる。

命令系統が違うのか、あるいは……別の「力」が働いているのか。

わたしには、それを確認する方法がなかった。

確認できないものは、いったん保留とする。


我々は踵を返した。

情報がなく、敵意が濃く、環境が悪い場所での突入は愚か者の戦術である。


しばらく元来た道を歩いていると、後方から声がかかった。

振り返れば、陽光を背に受ける男の姿。

その衣服、姿勢、声の調子までが「いかにも貴族」だった。

彼は自らを名乗らなかったが、どうやらこの森一帯、そして神殿を所有する一族の「現当主」であるらしい。



当主は言った。

「神殿に入りたいのなら、ある依頼を引き受けてほしい」

それ以上は語らず、「詳細は屋敷で」とだけ続けた。


我々は頷いた。

それは受諾ではない。

選択肢を削るわけにはいかない──ただそれだけの判断である。



沈黙のまま彼に続く道中、少年がちらちらと、あの岩場に残された衣服の方を振り返っていた。

彼がそこに何を見ていたのか、私にはわからない。

だが、それを記憶にとどめる意志だけは確かに見えた。


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