2日目:街道沿い、名もなき街にて
旅の2日目。
王都を発ち、南東へと伸びる古街道を進んだ。
地図上では「陽暦の道」と何とも立派な名が付けられているが、舗装の荒れ具合や枯れた標識の数々を見る限り、ここを行き交う旅人など今やほとんどいないのだろう。
草むした石畳の道を、少年は懸命についてくる。
足の裏を擦る音が弱々しく、よく見ると靴のかかとがすでに剥がれかけていた。
王は形式的な装備だけを与えたようだ。
中身の検証まではしていないのだろう。
今日最初に出会ったのは、街道沿いに立つ廃屋。
元は宿屋か、もしくは交易所だったのか。
壁にはかつての看板が、ひしゃげた鉄枠のなかで傾いてぶら下がっていた。
誰もいない。
風の音だけがする。
このあたりは、魔王の勢力圏から遠いはずだ。
それでも人の気配が消えているのは、前線で戦う兵たちを養うために人員が徴発されたか、あるいははぐれた魔物が通った痕跡か。
いずれにせよ、戻ってくる者はいない。
昼過ぎ、小さな集落にたどり着いた。
名もなき集落──少なくとも、現在の地図には記されていない。
そこには、数戸の家屋と屋根の崩れた礼拝堂、そして井戸が一本だけ残っていた。
人はいた。
農夫と、その妻と、老いた犬。
彼らはわたしたちを見ても、驚くほど無関心だった。
旅の経緯を説明しても彼らは何も変わらない。
明日を迎えるために今日の火を起こすだけの暮らしに神託も魔王も関係がないのだろう。
食料と水を少し分けてもらい、礼拝堂で夜を明かす許可を得た。
勇者は祈るでもなく、石柱の影に腰を下ろして寝息を立てている。
剣は抱いたままだった。
寝る間際まで、怖がっていた。
少年は、まだただの子供だ。
道中、虫に驚き、風に戸惑い、空腹に泣きはしなかったが、隠しているのは明らかだった。
明日はもう少し暖かい食事を与えてやりたい。
たとえ、それが彼の寿命を縮めることになっても。
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