1日目:王の間にて
旅の初日というものは、たいてい何の成果も得られないものだ。
ただ今日は、それとは少しばかり質の違う徒労感に包まれている。
朝、王から直々に勅命が下る。
──魔王討伐の任に、新たに選ばれた勇者を伴え、とのこと。
例のごとく神託つきの称号である。
「世界最後の希望」だそうだ。
ありがたい話だ。
ついでに言えば、神託が外れた場合の補償については何も記されていなかった。
そしてその「希望」と初めて顔を合わせたのが、今日の正午すぎ。
顔にはまだ幼さが残る。
剣の重みに手首を落とし、礼儀作法は見様見真似。
おそらくは今朝詰め込まれたのだろう。
その肩に、世界の運命が乗っているというのなら、それはあまりにも残酷だ。
彼のような少年が斃れても、誰も責任など取らないだろう。
そう思うと、喉の奥が焼けるように渇いた。
旅の出発は夕刻となった。
彼は街道の歩き方すら知らない。
だがそれでも歩こうとする意志だけはあった。
彼なりに勇者たろうとする姿は、けして嫌いではなかった。
勇者は、英雄として語られる存在だ。
だが、語り継がれる前に命を落とした名もなき候補たちは、どれほどいたのだろう。
その中のひとりに彼がならないと、どうして言い切れるだろうか。
私は見届ける。
彼が勇者として生きるか、ただの少年として死ぬか。
この手記はその記録である。
それが王から与えられた命であり、
わたしがこの手記を記す唯一の理由である。
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