表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魍魎宮のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
狙われたカエサル
62/66

カエサルの借金の行方

カエサルが襲撃を受け、後始末などをしている間、裏でもいくつかの動きがあった。

ファビウス一族のマキシマム家は多くの執政官を出している名門貴族だった。

ローマを支えてきたという自負もあり、ローマの多くは自分たちのものだという意識も強かった。

ローマではその名前は知れ渡り、多くの人から感謝されてくる人生を送っていた。

当代の当主、シビルは壮年も後半にさしかかり、ローマの繁栄のためにさらに自分が活躍したいと思っていた。執政官になる表ではなく、自分は裏でリーダーを支えることが仕事だとも考えていた。


そのシビルが気になっていたのが、ポンペイオス、そしてクラッススの2人の新しい世代の台頭である。それを結びつけたのが、ガイウス・ユリウス・カエサルというエフェソスで出会った若者であることも大きな注意を引いた。頑強な保守派で敬愛するリーダーであるカピトリヌスは、ポンペイオスとクラッススには大きな注意を払ったが、カエサルにはあまり興味を持たなかった。

彼はこのまま放置しておいてはいけない。

そうシビルは感じていた。


カピトリヌスが抱える情報屋である浅黒い肌の男インゴドはシビル・ファビウス・マキシマムの前に来て、同じ机に座り、酒を頂きながら色々と質問をされていた。

「お前の準備したチンピラは金だけ持って逃げたのか。」

「いいえ、旦那様、仕掛けたようですが、返り討ちにあったのです。」

「ほう、証拠はあるのか?3人組でうごくチンピラでしたが、カエサルの帰りがけに襲って、反撃をくらい3人のうち2人が殺されたようです。そして残った1人は釈放されたので、状況を確認してこちらで始末しておきました。しかし、残った1人は一番の下っ端でほとんど何も知らされていなかったみたいですね。」

「なるほどね。チンピラたちは仕方ないか。しかしやはりユリウス・カエサルは侮れないやつだな。カピトリヌス様はなぜあんなに軽視するのだろうか。」

「彼の立ち振舞いが、老人にはチャラチャラしているように見えるからでしょう。」

「分かるよ。高額な借金を持ち、女遊びだけでなく享楽的な遊びを好み、服装なんかに拘る男だ。しかし、部隊指令としては才能を見せつけた。民衆派の唯一の生き残りでもある。軽視するわけには行かないはずだ。実際私は彼の手並みを拝見したことがあるが、一流の指揮官であったと感じる。」

「シビル様の言い様は分かります。しかしあまり名前をさらす可能性があるのは危険だと思います。」

「少し心配しすぎなのではないかい。」

シビルは眉間にシワを寄せながら言った。

「カエサルのもとには優れた情報屋がいます。」

「そうなのか?どれくらい優秀なんだ。」

「スッラ様も重用していた情報屋の1人でその中でも優秀な者です。本人は飄々としておりローマへの忠誠などには縁がなかだたはずですが、カエサルを気に入ったようです。」

「ほう、そんな者がいたのか。名はなんと言う?」

「エセイオスと言います。我らのような者の中では知られた存在でした。」

「情報屋たちはデクラ様のとこに引き継がれたと思っていたが。」

「情報のやり取りをするものたちも組織で動くもの、1人で動くものさまざまです。デクラが継いだ情報部隊の長ヘスリは組織として諜報活動をすることを得意としていて、自分は集めた情報を整理して推測して新しい情報を仕入れる指示を出すことに長けてました、」「見てきた風だね。」

「一時期世話になってましたからね。」

「辞めたのはなんでだい?」

「組織に飽きたんですよ。指示が的確だが面白くない。私も風来坊なんでしょう。そしてエセイオスもその筋の風来坊として名を成してました。」

「分かった。カエサル自身の戦闘力も、彼のところに優秀な情報屋がいることも注意しておこう。しかし借金王にそんな金があるのか。」シビルは普通に疑問を出した。

「そうですね。借金をしてでも彼を囲っているのは何かしらの理由があるのでしょうか。」2人は色々と考えたが何も答えは出せなかった。

まさか借金を気にしない性格である、という答えはなかなか出せなかった。


インゴドと話をしながら、シビルは新しい案を出してきた。

カエサルは借金で首が回らない状態である。

更なる借金をこちらで受けて、言うことを聞かせるようにすれば問題ない。

借金をさせるだけさせておいて、油断させておいて自分たちの好きなように操ればいいのだ。

「確かに、抑えることができれば殺さなくても良いですね。」

インゴドは少しだけ不安そうな面持ちを見せる。それを見てシビルは、

「心配するな。私のところにもクラッススほどではないが十分な資金を持った商人がいる。しかも1人ではなく複数人いるからな。」

シビルは自分の構想が気に入ったのだろう。カエサルをわざわざ滅ぼさなくても自分から身動きできなくさせることができれば、民衆派という名で元老院に参加させることも可能であり、未来は明るいものになるように思えていた。



それから数日後、カエサルはエフェソス以来ぶりに会ったシビル・ファビウス・マキシマムから融資の話を持ちかけられた。

自分から借金を申し出るこもはしなかったが、シビルが身内に金貸を生業として貴族に申し入れをしたい騎士階級がいるんだ、と相談してきた。

だから、もし君の周りで金を借りたいという者がいたら是非連絡をくれ。利子も最小限にするように話は出きるだろう。

そういうと借金王と名高いカエサルだ。喜んで食いついて来るだろうと思ったら全く食いついて来ない。

一週間も経過して音沙汰無いことを確認するとシビルはさすがにカエサルに何度も借金をしろ、というのもばつが悪かったのでクラッススに会うことにした。


「ファビウス一族のシビル・マキシマムじゃねえか。俺に何か用か?金でも借りに来たのかい?」

この男はいつも不愉快な思いにさせる。

そう思ったが不愉快な表情も見せずにシビルは言った。

「いや、私の周りに金貸をもっとしたい、という新進気鋭の商売人がいまして、しかし、私もあまりそういった世界には詳しくない。そこで先達としてクラッスス殿に話を伺いたいと思ったんです。何とぞご助言いただけるとありがたいです。」

「ふん。」クラッススは値踏みするようにシビルを見た。

そして笑いながら言った。

「そりゃいいのがいるぜ。湯水のごとく金を使う男で、スレスレ利子だけ返却しているんだが、それもきびしくなってきているやつがな。」

「ほう、その方はなんと言われるのでしょうか?」

「ガイウス・ユリウス・カエサルというやつさ。」

「なるほど。カエサル殿ですか。しかし彼はまだ元老院の議員でもなくご自身の立場も強くない。」

「まあそうだな。それが嫌ならいいけどな。」と再びシビルの反応を見ている。

「そうですね。クラッスス殿はなぜ、彼に金を貸しているのでしょうか?」

「あいつは底抜けのバカだからな。」

予想外の反応に、シビルはとまどう。

「ああ、あいつはバカだ。」

「そ、そうなんですね。」

「ああ、女たちのプレゼントや図書に金を使い、自分の部下にもふるまうなんて使い方はバカ以外の何物でもないだろう。」

「う、そうですね。」

「だが、俺とは違う使い方のあいつが何を生み出すかは気になるのさ。」

クラッススが笑いながら言った。

「理由はそんなところだ。お前の子分はどうするんだ?」

「ええ、それでは私もクラッスス殿に乗らせていただきましょう。」

「いいな。だがあいつも素直に金を貸せとは言って来ないだろう。だから、俺があいつに渡している借金の半分をお前のところの商人に渡してやろう。そのついでにあいつにはお前のところに借金を一部引き渡したことを俺が伝えておく。それでいいか?」

「そうですか、そこまで介在していただきありがとうございます。」

一つだけ気になる点があった。

「ああ、じゃあそういうことでな。金額は100万デナリウスだ。」

「100万!?そ、そんな途方もない金額は無理です。」

「あほかお前は。それはカエサルの借金の10分の一にも満たないぜ。ファビウス一門がそれくらいの金を準備できねえわけじゃねえだろうな?」

「う・・・」

確かに準備できない額ではないが半端ない金額だった。ローマの正規兵を5万人雇いいれられるだけの額だ。しかし、ここでクラッススとの話を反故にすると今後にも響く。そう判断したシビルは、

「それでは何とか準備させていただきます。」と回答した。

「ようし、さすがファビウス一門だ。じゃあ、金が準備できたら持ってきてくれ。それで俺もカエサルに話を付けておく。」

そういってローマ最大の金持ちクラッススはほくそ笑んだ。

カエサルの膨大な借金の多くはクラッススとアッティクスが持っていたが、そこにシビルの息のかかる商人が割って入ってきた。それは今後にどのような影響を与えるだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ