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魍魎宮のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ポンペイオスとクラッススの年
51/66

カエサルの暗躍、迫る影

ポンペイオスとクラッススが執政官になることが決定して、その準備で両陣営はどたばたしていた。


ポンペイウスとクラッススの2人が翌年の執政官になることが決定して、ローマ市民たちが楽しみに待っていた。

年を追うごとに、ローマの食糧は高騰し、建物を借りるのも値上がりをし、生きていくことが苦しくなってきていたのだ。そして、各属州から多くの民族がローマに住みつくことで街は城壁の外にもえんえんと伸びていっていた。ローマの市街には生活困窮者が増えて、犯罪も多発していた。スッラの決定によって職を持たないローマ市民への小麦の配給も廃止になったことで、犯罪に身を落とすものが増えてきていたのだった。いくつかの盗賊たちは組織化して、街の警備隊の手に負えない状況にもなっていた。そんななかで商人たちの代表であるクラッススや将軍ポンペイオスに期待する人たちも多かった。


ポンペイオスとクラッススの年を迎えるにあたり、カエサルにとっても忙しい日々が続く。

互いに主張の食い違う二人の意見を裏でまとめるために活動したため。

しかし、そのかいもあってポンペイオスの幕僚たちや彼を尊敬している司令官や兵士にいたるまで、そしてクラッスス寄りの多くの元老院や秘書官などとも顔を繋ぐことができた。


当初、カエサルはポンペイオスとクラッススに互いの政策を協議する会議を作ろう、と提案をしたのだが、相手側と協議をする必要はない、と両者の回答だったために、両方の会議に顔を出すことになった。

これはカエサルを忙しくさせたが、互いの陣営に味方だと思われる効果をもたらして、内部での友好関係を築くことに大いに役に立った。

自分の部屋で話し相手になってもらっているプブリヌスに言うと、

「二人の権力者とその関係者に顔をうまく繋げて良いじゃないですか。」と前向きな意見を言われたがカエサルは

「時間がなくなるんだよね。女性たちと楽しむ時間が。だから朝イチに会議をしてくれて、短時間で終わると良いんだが、いろいろと議論しているとあっという間に時間が過ぎてしまうんだ。プブリヌス、代わりに君が出て話を聞いておいて欲しいよ。」

「そんな大役はごめんですな。」と笑って主人の苦労を流した。


そんな愚痴を言いつつも、カエサルは双方の陣営の人たちとの話し合いを楽しんだ。ポンペイオス派閥の将校たちとは兵士たちの地位向上や行軍の際の輸送など、ローマ軍の兵站についてや戦術や戦略論議を楽しみ、工兵がもたらす効果や部隊のすばらしい技術などを教えてもらったりした。

そのなかには以前、レピドゥスの反乱の時に刃を交わしてことがあるラビエヌスという将校がいた。

カエサルは顔を隠していたのでわからないようだったが、実直そうな黒髪の若者は見た目のとおり寡黙だったが、カエサルは話をしてみたいと思い、近づく。

「やあ、私はユリウス・カエサル。君はラビエヌスだよね。」

「ええ、カエサル家の家長であるアナタの噂は聞き及んでます。」

「それが私を満足させる噂なら良いね。」

と言って笑った。

そして、ラビエヌスを挑発するように

「君は元老院議員になろうと思わないのかい?」と投げかけると、正直な青年は、「正直、私には過ぎた話だと思います。ポンペイオス様が執政官になり、我々がさらに力を付けて、元老院がいくら騒いでも手が出せない状況に持っていくためには、私たちが力を持つ必要があるのでしょう。」

と、答えた。

「君は真面目だな。君自身の野心はポンペイオスにのみ向かっているのかい?」

ラビエヌスは、カエサルにまっすぐに向かって言う。

「私も故郷に私が活躍している、と伝えるためにローマで名を上げたいと思います。しかし、だからと言ってポンペイオス様をないがしろにするのはあり得ないことです。」」

まじめだな、とカエサルは思いながらもその実直さは羨ましくも感じた。

「ああ、分かるよ。ポンペイオスは尊敬すべき人物だ。ぜひ私も君とともに彼の助けになってあげたいね。」

そう言って笑顔を見せた。

その後はラビエヌスと他の将校も交えて戦争、特に過去の戦術の話になった。そういった話題ではラビエヌスも饒舌になり、ポエニ戦争でのスキピオとハンニバルの戦いなどでカエサルと議論し会うことてを互いに認め会うことができた。


議論を楽しんだ後にはクラッスス派閥の重鎮たちと税政と新しくローマの市民権を得た人たちの対応について話し合う。そして無職の人たちが増加していることへの福祉政策のぜひなど、日々発生するローマの経済的な問題について話し合われた。

さらに何人もの裕福な商人たちとはローマや近隣との商売から、鋳造局で造っている貨幣の価値について、はたまた東方オリエントの豊かな世界の珍品や南方アフリカの珍しく巨大な動物たちの話をした。


カエサルは大変だ、と言いながらも自分が具体的な法やローマで経済の問題を話せることに楽しみを覚えていた。

本来の仕事である神祇官や軍団司令官職は、必要なことは行っていたが、誰の目にも力を入れているようには見えなかった。

そして忙しいなかでも手は抜かなかったのが

自分の読書と支援者(クリエンテス)のフォロー、それから女性たちとの密会はしっかりと行っていた。


女性たちの中には、ポンペイオスの妻、ムチアとクラッススの妻テルテュアもいた。

カエサルが貴族の女性たちの間を練り歩くのはいつものことだったので、どちらの家の守備兵もあまり気にしていなかった。

しかし、その動きを遠くから観察している者がいた。


ある日、チェリオの丘にあるポンぺイオスの邸宅に身なりの良い商人が、服装はそれなりに整っているが一人のぱっとしない姿の女性を連れて現れた。

身なりの良い商人は、守備兵に対して、

「ムチア様のご要望で、新しい使いの女性を連れてきました。今、お時間は大丈夫でしょうか?」

「ああ、あんたか。大丈夫だ。しかし・・・」

ぱっとしない姿の女性を見て守備兵は言った。

「もっと他の人はいなかったのかい?」

「何か問題でもありますか?」

「いや、若そうだしあまり俊敏に動けそうにないな。」

「そんなことありませんよ。彼女は若いながら、ギリシャ語、ラテン語、ガリアの言葉も理解し、東方の地域にも詳しい商人の子なので、必ずムチア様のお役に立つでしょう。」

「そうか、名前はなんという。」

「サラミアと言います。守備長様。」

礼儀正しく聞こえやすい言葉で言う女性を身て、守備兵は悪くないと思った。

「まあ、後は奥方の判断だな。どうぞ中に入り給え。」

そうして、商人とサラミアはポンペイオス邸の中に招き入れられていった。

ポンペイオスとクラッススが執政官になる日が近づいていた。その年に何をなすべきか、両陣営が激しく動くなかで、カエサルは両陣営の会議に参加することも許されて、議論を深めていった。

そんな中で、カピトリヌスの部下たちがカエサルに迫りつつあった。

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