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魍魎宮のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
カエサル、ローマでの生活を楽しむ
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カエサルの生活

ムチア、テルトゥアと楽しい時間を過ごしているカエサルを

身内は心配そうに見ていた。

痩身の若者は、ローマの人気者だった。

元老院議員の父を持ち、慎ましくもローマの名門貴族の出身というだけで恵まれていたと言って良いだろう。

生まれた子供たちは、今度はローマの質実剛健の気質、ギリシャ語、ラテン語、修辞学、地理、歴史、算術、などを教師や親などから学び、体力づくりを通して逞しい身体と精神を手に入れる。

その過程で友人を作り、社会的にも成長をしていく。


カエサルはその時点で自分の力を周りに見せつけていた。

好奇心旺盛なカエサルは、多くの学問を学び、教師とも意見を交わしたし、失敗することを恐れずに果敢にチャレンジをした。身体は生まれたころから細くはじめは華奢だったが、身体を鍛えることを覚えてからは細くとも筋肉質の身体になった。

自信満々で自己顕示欲もあったが、ユーモアと他人への優しさを持っていたことで男女問わず好かれてもいたし、付き合いの長い友人たちからは自信満々具合をからかわれても笑顔でやりすごすことでその言い合いを楽しむことを知っていた。


他の者からうらやましがられるカエサルには大きな欠点があった。

カエサルに従っているプブリウスもダインもジジも、そして母のアウレリアもそれだけが心配だった。

それは人との付き合いの緩さと金の概念が緩すぎることだった。


人との付き合いは、自分が関心を持った人とは、誰彼構わず仲良くなることだ。街の店番をしている人、奴隷剣闘士、織物業の下っ端、果ては浮浪者まで。さらにローマでは家門を大切にしているのだが、家門に関わりなく高い身分の人たちとも交流を持っているのだ。貴族、元老院とその親族にいたるまで。しかしプブリヌスやダイン、ジジが特に心配しているのは、今急速に力をつけている2人の実力者、クラッススとポンペイオスの妻たちと仲良くしている主人を心配していた。

実際、テルトゥアともムチアとも日を空けずに会っていたのだ。はたから見たら単なる間男である。

間男は、美しいムチアが一人でいることこそ世界の損失だ、などと相手が喜ぶようなことを簡単に口にして、それを自分自身が本気で信じているから始末が悪かった。


さらに身内を心配させていたのは金の概念だった。

名門貴族にしては貧乏、とはいえ一般の家と比べれば裕福な家庭だった。

ローマは地中海に並ぶもののない大規模な国となり、戦争に勝ち続けることで首都に多くの人が流れてきていたため土地も建物も高くなり、あわせて生活に関わるすべてのものがインフレを起こしていた。

そのため、一市民が生きていくには狭い間借りしたアパートを高い家賃で住み、安い賃金で働く者が増加し、失業し住むところを奪われた人々が行き場を失い、路地裏にたむろするようになってきていたなかで、カエサル家は古くから住んでいるため一軒家に住み、人を雇い入れることができていたのである。

それでも厳しい家計をやりくりできていたのは母アウレリアの力だった。

カエサルが家長としての役割を認識し働くことでその家計も楽になることが期待されていたが、16歳のとき、父の死で急に家長になってから10年以上が立ちながら、やっと最近、定職につけたというありさまだった。

その間、カエサル家の家計は苦しいながら借金をせずに生活をできていたはずだったが、家長は勝手に自分で借金を増やしていった。

1つはムチアやテルトゥアなど仲良くなった女性へのプレゼントだった。女性の気を引くためのプレゼントではなく、女性の趣味や好みにあったり、女性の新しい一面を見せるためのプレゼントで、それは装飾品にはじまり嗜好品、珍しい着付けの服、珍味、香草、地域の特産品とありとあらゆるものにいたった。ローマが強大な力を持つためにありとあらゆるプレゼントを集めることができたが、輸送費だけでも高額になるため、眼が飛び出るような金額のプレゼントを準備することもまれにあった。

仲の良い商人を通して仕入れることが多かったので、かなり格安に仕入れても元の値段が高い。

次に本。自分の知的好奇心であり趣味でもあった読書を極めた結果、弁護士での起業に失敗したカエサルは文筆家になろうとして、古今の書物を収集していた。大量の本、そして奴隷による写本が流通していたとはいえ高価だった本をいつも買い入れていたためにカエサルの部屋も、そして秘密基地にも本はあふれかえっていた。その結果としてカエサル家に使える従者や奴隷はみな、本を読ませてもらったりすることにも親しむことができた。引き換えに多くの借金を手にすることにもなった。

最後にカエサル家のクリエンテスとの付き合いでお金がかかった。カエサルが家長になり市井の友人たちもクリエンテスとなり、カエサルを支援する人々は増加したが祝いや交流会など、またカエサル自体が元老院議員でもなく、権力がないため、支援者も強力な擁護者を持てないため、商売が上手くいかなくなくなることもままあった。それでもカエサル家に忠実であろうとするクリエンテスを資金的に支援することにカエサルが躊躇しなかったため、借金は増える一方だった。


そして、カエサルの借金先にクラッススなど有名で信用できる金貸しが名を連ねていたため、貸す側も安心してお金を貸すため借りる先には苦労することもなく借金は日々増加していった。


そんなカエサルは軍団司令官の職を持ち、神殿の神祇官を務めることで表向きの信用度も高く、相談事もひっきりなしに舞い込んできていた。大抵の相談を快く、しかしすばやく解決していたカエサルは、仕事を終えると後は任せて、友人づきあい、女性との付き合いに時間も必要とあらば金も割いていた。

母アウレリアに諫言されてもそこは改める気がなかった。


そんな日々を過ごし借金を増やしている時に、友人であるアッティクスから話があると連絡がきた。


アッティクスは厳しい眼で友人を見ていた。

「ガイウス。私は今回あなたが行ったことを許すことができません。もともと問題をたくさん抱えていたソルレイアを引き取るように相談してきたのはあなたでした。そのため私は引き取り剣闘士だった彼女に改めて教育を施して礼儀作法などを教え、プラタリオで働けるほどに育てたんです。それを勝手に連れ出して勝手にどこかに行ってしまうなんて。しかもその詳細も不明だ、と言われてしまうのは納得できません。」

「わかるよ。アッティクス。」同調するカエサルに苛立ちを隠せずにアッティクスは

「わかってません。わかってないからこんな状態になっているんです。」と愚痴った。

「アレミアたちもソルレイアが気品のある淑女になるように一生懸命教育したんですよ。それがどこかに行ってしまった、と言われたら納得できないでしょう!」

ヒステリックになったカフェ・プラタリオのオーナーは叫ぶように言いながら、カエサルに言った。

「いいですか、ソルレイアの件についての説明はあなたから彼女たちにしてください。」

カエサルは友人が落ち着かない感じになっているのを見て笑ってしまった。

「そこですよ。そこ。あなたは私を笑っているが、私が心穏やかにいられないのはあなたのせいですからね!少しは自重してください。反省していただくまでは、こちらからの支援、借金は全てお断りさせていただきます。少なくともプラタリオの女性陣が納得するまでは許しませんからね。」

「わかったよアッティクス。本当にその件は申し訳なかった。アレミアたちへの説明も私が責任をもってうけもとう。」

そういってアッティクスの反応を見た。

なんとか頷いて納得したオーナーはため息をはく。

そこへカエサルが本題に入った。

「それよりも今日は別の話があって私を呼んじゃなかったかな?」と次の話に移るように促す。

すでに切り替えている痩身の若者を見て、オーナーはあきらめたような気分になって本題に入った。

「ガイウス。あなたに合わせたい人物がいるんです。私の同郷の友人で、キケロといいます。弁護士をしていたのですがうまく出世して元老院議員になった男ですが、非常に頭の良い男でこれを機にさまざまな縁を結んでおいたほうが良いかと思ったのでご紹介させていただきたいと思います。」

「キケロ?最近喜劇俳優の弁護をしていたマルクス・トゥッリウス・キケロかな?」

「ええ、そうですね。貴族な訴える弁護士の活動をしていて反発をくらい東方留学をして戻ってきての最初は喜劇俳優の弁護でしたね。同じく東方留学をしていたあなたとも話があるかもしれません。」

「へえ、それは楽しみだね。」

「そう言ってくれると思っていました。ただ今キケロは難題を抱えていて、それもガイウス、あなたに相談することで落ち着くのではないかと考えています。」

「へえ、売り出し中のキケロが私に相談とは?」

「会ってみてのお楽しみです。」細かなことは語らなかった。アッティクスなりのカエサルへの仕返しだった。


アッティクスが会わせたいというキケロという人物はどんなやつだろう。

そうカエサルは思った。

弁護士の父、と言われるキケロついに登場。


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