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旧友との再会

旧友であるキルティウス・エルバミウスに合うために昔の秘密基地に向かったカエサルは

そこで旧友と再会することができた。

痩身の若者は、少し体格の良くなった筋肉質の若者の口から笑みがこぼれるのを見て、少し早足で近寄っていった。

直ぐ近くに向かい合い、二人はお互いの頭から足先までを見る。

それから笑顔になり抱擁を交わした。

「無事でよかった。」カエサルがそう呟くと

「お前を置いて死ねないからな。コッタ様からも、頼まれているからな。仕方ない。それにしてもロードス島で美味しいものばかり食べていたのか、少し筋肉が付いた感じがするな。」

「そう見えるかい?実は美味しいものはたくさんいただいていたんだ。魚もうまいが、エフェソスやアレキサンドリアからも積み荷が経由していくおかげで、結構珍しい食材も手に入って、その地方の料理も堪能できたりしたからね。」

それから2人は、キロが準備した葡萄酒を杯に注ぎ、わけて飲み始める。

カエサルは、自分が持ってきた酒のつまみをいくつか袋から取り出し、皿に盛って簡単な祝いができる準備をした。

最初の一杯、静かに飲み、一息ついてからどちらともなく話始めた。

キロが、コッタの最期の状況、属州となったビティニアの話をする。カエサルは自分が居たときと様変わりしたようなビティニアの話を聞き、疑問も投げ掛けた。まだ20歳になるかならないかの時に、何人もの王族や貴族、将軍などと仲良くなっていたのだが、キロの会話から彼らの名前は出ることもなかった。唯一、海軍の将軍の名前が出て、懐かしさを覚えたりしたが、ビティニアは国家としてはやはり厳しい状態に陥っていたことを強く感じた。

自分がもしニコメデス王の勧めにしたがって王族になっていたらもっと何かできていたんじゃないだろうか、そんな考えがカエサルの頭をよぎる。

ローマではまだ半人前扱いをされているが、ビティニアにいたら自分が王の補佐をしながら国家の舵取りができていたかもしれないのだ。そんな夢想をしながらキロの話を聞いていた。ローマへの移譲が決定した国は王族も大半がどこかにいってしまっていて、キロがコッタに付いてビティニアの首都についた時には引継をするための王と重臣たちだけがいた状態だったそうだ。王族もローマへの移譲について異論がある者も多く、特にカエサルを敵視していた第三王妃のマリシアなどが移譲反対派だったそうだ。カエサルは敵視していた第三王妃の姿を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。それでも第一王妃のルディスは王の意見に賛成だったため、移譲は決定されてその手続きなどが進んだという。

その後は、移譲を決める前後も侵略をくりかえしてきていたポントス王との戦いなどの話を聞く。

カエサルは完全に聞き役になり、自分だったらどうしただろう、と考えて親友の言葉を聞いていた。

キロが実戦で人を殺したのは、18歳のとき、カエサルと逃避行をしていた時に襲い掛かってきた2人組の男たちとの戦いだけだったが、その次の実戦は大きな戦争になった。侵攻するポントス軍からビティニア地方を奪還する戦いの案は悪いものではなかったが、案が完全には機能しなかったことで、窮地に追い詰められてコッタもキロも傷を負ったが、奇跡的に逃げ出すことができたそうだった。

それも、カエサルは自分がロードス島から駆け付けられれば、またはエフェソスか、ニコメディアに近い場所にいれば変えられたかもしれないと思って考えていた。

結局、逃げることに成功したが、そこで心身共に疲れたコッタが病に倒れてしまい、その地でなくなる。

「ビティニアか、エフェソスあたりに私がいて、コッタ叔父の支援に迎えたらちょっとは何か良くなっていたかもしれないな。」と考え込むようにカエサルが行った。

「そうだな、可能性はある。だがな、カエサル。お前はいなかった。俺たちのベストは尽くしたってことは事実だから、そこを思い悩んでも仕方ないさ。」

淡々とキロは言ってカエサルの頭をなでる。

「だから、あんまりお前が反省なんてするより、これからどうするか、をしっかり考えることが大切だろう。ビティニア領も全域は取られていない、ローマ領である以上、元老院も奪回しなければいけないから派兵をすると思うぜ。」

「もう元老院ではその話がでているのかい?」

「ああ、属州ビティニアがポントス王に奪われているんだ、ローマのメンツを考えても奪還に動くはず。大物が動くとおもうぞ。」

「ドラベッラかデクラかな?」

「いや、勝たなければいけない戦争だからな。ルクルスが行くんだと思うぜ。」

「ルクルスか、これはまた大物だね。」

「ああ、スッラにずっと仕えてきていた忠臣でもあるしね。だから俺はその状況を見つつコッタ様の埋葬なんかをいろいろ手伝ってから家督や遺産相続の話が整理ついてから自分の好きなことをするさ。」

コッタには兄、弟がいて全員が元老院議員に名を連ねていた。彼らの回りの者たちが亡きコッタを悲しみつつも、権利や資産のなかで奪えるものは奪おうとしたらしい。

その有り様には辟易しながらも、権利に係わる方法を学び、実践してみた経験だけがキロの得たものだと自嘲気味に言う親友の肩に手を回して、慰めた。

「わたしも神祇官を頂いたからな、叔父さんの思いを抱えながら、私のできることをするよ。」

「ああ、そうだな。」ため息をつきながらキロは主であり親友である若者の前向きな意見に乾いた笑いをする。

「いつまでも落ち込んでられない。しかし、コッタ様の気持ちをお前、本当に大切にしろよな!」毒づくように言って笑う。

その言葉を受け止めながら、カエサルは親友の行き先を気にして質問した。

「これからどうするんだ?うちに戻ってこいよ。」

真剣に言うカエサルに対してキロは首を横にふった。

「ダインやジジも頑張っているんだろ。だったら俺は少し距離を持ってお前を支えていくよ。」

カエサルは理解をしつつも、「当面の間でも戻ってくればいいんじゃないか。コッタ家も微妙な状態ならいる場所がないだろ?」

「おまえ、俺がどれだけコッタ家で信頼されているか知らないだろう?寝泊まりする場所もあるし、婦人も俺を頼ってる。コッタ様の兄弟も俺を引き抜こうとしてくれている。いく場所なんていくらでもあるぜ。」

「さすがキロだな。」軽く言うカエサルが、少し間を置いて言った。

「でも、ずっとコッタ家で世話になるつもりもないんだろ?」

「まあな、一定期間が過ぎたら、次を探すさ。お前は神祇官になって、軍団司令官にも立候補するんだろ?やっと階段を上がり始めたお前を支えるために必要なのは護民官か、騎士階級か、解放奴隷だから俺も軍団司令官に立候補できるか、もう少し進み先は考えるさ。」

「何でそんなに私と距離を取ろうとするんだ?」

キロはあきれたようにため息をわざとらしくして、カエサルの頭に手をかけて、しわくちゃにして言った。

「おまえ、ドラベッラの訴訟のことを思い出してみなよ。急に商人が事前の打ち合わせと違うことを言い出しただろ?あれは絶対に裏で糸を引いているやつがいるんだ。お前のそばにいたら、そういったのに気付けないだろ。」

「裏切るとか、そういった些細なことで私は自分が進むべき道を変えたくないな。」

「お前な、下手したら命に関わる問題なんだぞ。ローマは、特に元老院は魑魅魍魎の住む宮殿だ。お前の背中を守るやつ、周りを遠くから見るやつも必要なんだぜ。おぼっちゃん。」

「そうか。キロにそこまで考えてもらっていたとはね。」

「元老院についてはおれの方が詳しいからな。」と自慢気に言う。

そのキロの背中を叩いてわらってカエサルは

「頼りにしてるよ。」と笑う。

その後も二人はカエサルの周りやローマの状況について今後の話をした。

「後、何か最近変わったことがあるかい?」

「現実的な問題として、小麦の流通が減って値段が高くなって、執政官のときにコッタ様がシラクサに買い付けに行ったことがあったんだが、最近そのときと同じように小麦が高騰しているな。これもコッタ様が復活させた働けない人たちへの福祉施策が機能しなくなってきているんだ。小麦の値段という経済的な問題と、運搬で中抜きしているやつがいる仕組みの問題だろうな。どちらも今の俺たちではなにもできない。ただし、そんな状況にあるから浮浪者とか働いてない者たちはかなりイラついているからすぐに暴動に発展するかもしれないし、治安はもっと悪化するかもしれない。暗いところを一人で歩くなよ。

ローマでは働けない人への福祉施策として小麦の配給制度があった。これをスッラが国家財政の改善のために廃止して、コッタが復活させたのだ。コッタの狙いは非生産階層の暴徒化を防ぎ社会の安定化を狙ったものだが、その小麦が値上がりして配給が遅れがちになっているという。

「市内がぎすぎすしているのもそのせいかな?」

「影響はあるだろうな。奴隷が多く流入してきているのも問題かもな。奴隷を世話できなくなった主人が奴隷に寝首をかかれて、逃亡奴隷も市内も郊外も増えているらしい。悪い話しかないな。ところでお前はどうするんだ?」

「うーん、神祇官になったから、その仕事をしつつすぐに行われる軍団司令官へ立候補する。それから来年の財務官にも立候補すれば、元老院に入れるだろうからね。」

「そうだな。まあ、順当な手段だな。」キロもカエサルの方針に頷いた。

「そうそう、お前の奥さんコルネリアの兄のキンナも今ローマに戻ってきているらしいぜ。」

「キンナか、会っておくかな。」

「ああ、今後の役には立つだろうな。」

考えながらカエサルは言う。

「民衆派としてローマを脱出した人たちがローマに戻ってこようとするだろう?」

「ん、ああ、実際その流れはあるな。」

「じゃあ、キンナと一緒に民衆派の帰国支援をするのはよいかもね。」

と笑って言う。

「ああ、それはいいんじゃないかな。民衆派の帰国支援をしつつ、カエサルの名を売れる。お互いメリットだしな。」

「では、私の当面の目標は、キンナとあって名を売る活動をしながら、軍団司令官になるための選挙で勝つことだね。」

「悪くないな。俺としてはお前のポンペイオスみたいに戦場でお前が名をあげてどんどん出世してほしいんだけどな。」

と苦笑いをする。

「そういうのも悪くないけどね。タイミングがあればね。」

「そうだな。」

「ああ、後あまり大した情報じゃないけどな。南部のカプアで盗賊が出ているらしいぜ。だからカプアとかターラントとか南部の都市に行くために街道沿いを通るときは注意しな。」

「ああ、わかった。気を付けておこう。」


そういってその日は終わった。

カエサルはキロとの別れを少し惜しみながらも自分のすべきことをしようと思って帰宅した。

旧友、キロとの再会を果たして自分たちの目標を整理したカエサルは

自分にできることを改めて考えることにした。


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