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スパルタクス、ソルレイアと再会する

黒い肌の戦士、アジズバがスパルタクスの身を案じているところ、

スパルタクスには予想外の客が表れていた。

「やあ、スパルタクス、今回もローマ軍を撃退したそうだね。君たちの強さに乾杯しよう。」

「カエサル、そう簡単に何度もこんなところに来られたら困るだろう。」

苦々しい表情で痩身の若者を見る剣闘士奴隷のリーダーは、それでも笑顔でカエサルに挨拶をした。

「それで、この先どうするつもりだい?」

「そのことで問題になっているんだ。」

「ほう?君たちは自由を求めて北に逃げると思っていたが、違うのかい。」

「ああ、どうも逃げたいのは私を含めた少数派で、多くは半島に残りたがっている。」

スパルタクスの表彰が暗くなる。

顔を見ながらカエサルが言った。

「なるほど。略奪をしたい者たち、越冬するために半島に残りたい、という者たちかな。」

スパルタクスは頷いた。

「君自身はどうしたいんだい?」

痩身の若者の質問に男前の剣闘士は一瞬苦しい表情をして声を絞り出すように言った。

「私だけならば自由を求めて走りだしている。しかし、私を慕ってきた人たち、私たちを頼ってきた人たちを捨てて逃げることはできない。」

「もし、次の戦いで負けてしまうかもしれなくても?」

「正直、分からないんだ。私はローマに住みカプアにも住んだ。ローマの強大さを嫌というほど味わっている。その巨大なローマに何度か勝ったとして、ローマは微動だにしていないように思う。奴隷制度を考える機会になったかも知れない。しかし、ローマが寛容を与えるのは!次からだ。」

今度はカエサルが固まる番だった。スパルタクスの言う通りだった。ローマはスパルタクスたちを許すことはないだろう。見せしめとしても、反乱軍を徹底的に叩くはずだ。過去の反乱でもそうだったように。そしてそのあとで、奴隷の扱いについて元老院で議論されることはあるだろう。奴隷がここまで反抗したのはなぜか?その根本原因を考えなければ同じようなことが起こるはずだ、と。

今、ローマに反抗するものたちが生き残るには、隠れて逃げ延びるか、ローマを相手に長期の戦いで勝ち続けることのどちらかしかなかった。そして、地中海世界でローマは世界一しつこい民族として、国家として知られていた。

反乱軍が10回ローマに勝ったら、ローマは11回目の遠征軍をおくるだろう、と言われているのだ。’20回ローマに勝ったら、21回目の遠征軍を送るのだ。

そう考えながら、カエサルはスパルタクスに質問した。

「君の心意気はわかった。君自身が進む道に私は助言を与えることしかできないが、君は私の友人であり共に戦った戦友でもある。私が思うかぎりの助言をしたいと思う。それでも最後に決めるのはやはり君だ。」

「私を引き留めに来たんじゃないのか?」

「見くびらないでくれ、私が私の友に私の言葉を届けることはしても、最終的な選択はその友達自身が選ばなくてはならない。」

「ふふ、そうだったな。」

スパルタクスは笑って言った。

「では、改めて問おう。カエサルはどのような助言をスパルタクスに持ってきてくれたんだ?」

「そうだね。君の気持ちはわかった。私からは、君に会わせたい人がいるんだ。」

そして、布をまとった剣士を指し示す。

カエサルの周りはいつも何人かの従者がいるから、気にしていなかったスパルタクスは、指し示された先にいる、マントを羽織った剣士を見た。


再開、スパルタクスは涙を流す。

マントを羽織り布を被った剣士を見て、スパルタクスは固まった。

「まさか。」


「まさか?」

そらから剣士にかけよりマントのうえに手を置く。

「優しくして。」

剣士が厳しい口調でスパルタクスを責める。

「ああ、布を取ってくれ!」

「わかったわ。すぐにばれちゃったわね、スパル。」

そう言って布を取りながらスパルタクスに抱きついた。

「ソルレイア。元気そうな君にあえて嬉しいよ。」

言葉がつまり声にならない。

ソルレイアもゆっくりとスパルタクスに手を回して言った。

「助けてくれてありがとう。今度は私があなたを助ける番だよ。」

「そうか。」とだけ言った。

その後、2人は少しだけ2人で何か会話をして過ごす。

従姉妹という以上に親密そうな姿にカエサルたちは少し遠慮して角のほうにいた。

正確にはジジとザハが遠慮してちいさくなっていて、カエサルは椅子に座って葡萄酒を飲みながら、二人を微笑ましく見ていた。

そこへテントの外から無遠慮な声が届いた。

「スパルタクス!そろそろ集まろうぜ。」声の主はアジズバだった。アジズバはスパルタクスのテントにも怪しいやつがいないか、気になってあたりを一巡しながら、聞き耳を立てていたのだが、スパルタクスが驚嘆するような声が聞こえて、そのあと小声で話す声が気になったので、いつもどおりを装って入ってきたのだ。

そして、カエサルたちが角のほうにいるところにズケズケとテントの中に入ってきた。

入った瞬間に、スパルタクスのすぐそばにたつ剣士を見て、はっと構えるが、相手を良く見て、破顔した。

「ソルレイア?ソルレイアじゃないか、俺だよ、アジズバだよ。」

「久しぶりね、アジズバ。」

ソルレイアもスパルタクスから少し距離をとって、見知った剣闘士に挨拶をした。

「どこかに身売りされたって言ってたけど、無事だったんだな?それは良かった。スパルタクス俺にも早く言えよ。」

と言ってハンサムな剣闘士の腹を優しく殴る。

「私もスパルタクスを助けようと思ってきたの。」

「そうか、そりゃ心強いな。しかし、そろそろ俺たちは今後の方向性を決める会議に行かなければならねえ。後からゆっくり話そうや。じゃあ、ちょっとスパルタクスを借りるぜ。」

黒い肌の戦士は、カエサルたちに視線をよこすこともなく、すぐにテントの外に出ようとする。

「ええ、わかったわ。」2人の戦士の背中にソルレイアは声をかける。

スパルタクスは後ろ髪を引かれる思いがあったが、いつも以上に強い感じでテントの外に出そうとするアジズバの圧力に負けてテントから外にでる。

その顔からは迷いは消えていた。


スパルタクスにソルレイアを引き合わせたカエサルは、反乱軍の会合の

結果を待つためにゆっくりとすることにした。

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