カエサル、クラッススと反乱軍について話をする
クラッススに呼び出されたカエサルは
どんな話をするのだろうか?
「ようカエサル、すでに話は聞いていると思うが、俺が総司令官となって8個軍団を率いて反乱軍を鎮圧しにいくことになった。お前は若く有能な軍団司令官になれると思うから、本当は選出したいところだったが反乱軍の長との関わりもあるからな。今回は選出しなかった。俺の下で一働きしてもらいたかったぜ。」
「クラッスス、ご配慮ありがとうございます。私も残念ですね。せっかくはじめて軍団司令官として働けると思ったのですが。あなたの傘下で存分に力をふるいたかったところです。」
互いに挨拶から入ったところで、クラッススは本題に切り込んだ。
「ところで、お前の元友人やその軍団から連絡はあったりしなかったか?」
「ありません。あれば軍団を捨ててでも逃げろ、とアドバイスしたかったのですがね。」と笑う。
連絡はないが、直接会って逃げろと言っても聞かなかったんだけどね、と心のそこで呟く。
「そうか、今後も何か動きがあれば教えてほしいものだな。」とカエサルの心を見通そうという風に見ながら笑っていう。
「クラッスス。今度の総司令官改めておめでとうございます。今回のあなたの目的はスパルタクスの拿捕が目的なのか、反乱軍の鎮圧が目的なのか、どちらでしょうか?」
「両方だ。」
クラッススはカエサルを見ながら即答した。
2人の間に静かな時間が流れる。
クラッススは、痩身の若者が何か反乱軍のリーダーととつながる線を考え、再び口を開く。
「だが、反乱軍の鎮圧が目的だ。俺が総司令官になって鎮圧に成功した証が完成するのは敵の総司令官スパルタクスを倒した証があることになる。だから両方を目指すのだ。」
「分かりました。スパルタクスを倒した証となると理想はその首でしょう。ですが、相手は奴隷の軍団、戦場でうまく相まみえて戦えるか分かりません。スパルタクスの持っていたものなどでもその証明にならないでしょうか?」
「細かなことを聞いてくるな。お前が戦場にでるわけでもあるまいし。」と笑いながら話を続けた。
「ああ、その可能性はある。奴隷の軍団は私に蹴散らされてしまうだろうから、その首謀者の首を手にすることは難しくなるだろう。だが、奴は目立つ印、赤い馬の鬣とコウモリの羽を付けた兜頭にしているという。よくはないがその兜でも証になる。ないよりはましだろう。」
豪快にわらいながらクラッススはカエサルを真剣に見た。
「何か、考えていることがあるのか?」
カエサルは首を振って答える。
「いいえ、たまたま、私も北イタリアに行く予定ができたので、いきがてら、スパルタクス軍から接触があるかもしれないと思ったのです。さて、そこで接触があったとして、スパルタクスを打ち倒したら、例えばその兜を持って帰ったらクラッススは私に恩賞をくれたりしますか?」
にやっと笑った男は痩身の若者をじっと見つめて言った。
「そうだな、首を持って俺に届け誰にも言わないのであれば、お前の借金を半分にしてやろう。首ではないがその兜を証拠になるものをもってきたなら、借金の4分の一か、それと同等の恩賞を渡そう。もちろん討ったという事実を買い取らせてもらうぞ。」
「ありがとうございます。しかしローマの仇敵を討った証が半分ですか?」
「ああ、スパルタクスを討てば敵が霧散していくなら全額でもいいだろうが、そうはならんだろう。」
笑いながら、この男相手にぶっかけるのは無理だと感じたカエサルはすぐに切り替えた。
「そうでしょうね。わかりました。ちなみにクラッスス、もし行軍中のあなたと話がしたい場合、何かクラッススに直接会える証をもらえないでしょうか?」
「むう、そうだな。今回は過去に例をみない大軍だからな。通行証を準備しておいてやろう。」
「ありがとうございます。」
カエサルは話は終わったとばかりにその場を去ろうとしたところへ、クラッススが一言言う。
「ガリア・キサルビナ属州総督のカッシウス・ロンギヌスが反乱軍の北への逃亡を防ぐためにルビコン川に向かっている。」
カエサルは帰りがけの動作を止めて、振り返った。
「それは、クラッスス、あなたの軍と挟撃をする感じでしょうか?」
「ああ、そうなるな。反乱軍を包囲殲滅してくれる。だから急ピッチで軍を組織しているのさ。善管揃わなくても兵を出そう。」
一瞬止まりかけたカエサルはすぐにその情報を受け入れて、笑顔で言う。
「ご武運をお祈りいたします。」
そういって去ろうとしたが
クラッススは食事を準備したから食べていけという。
その後、カエサルは喜んでクラッスス邸の豪奢な食事を堪能してクラッススやクラッススの妻、関係者とも大いに話を楽しみ、夜も更けてきたころになって礼を言って帰っていった。
クラッススとの話が終わったカエサル。
クラッスス軍の目標は想定したとおりだと確認できた。
後はスパルタクスを説得できるか、にかかっている。
そして反乱軍とクラッスス軍の激突は近くに迫っていた。




