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カエサル、スパルタクスと反乱軍について話す

スパルタクス個人が休むテントにもぐりこんだカエサルは

ついに本人と話をする機会を手に入れた。

いつも、静かに過ごす自分のテントには、何人かの女性が自分の世話をすることがあったが、一人でいたいスパルタクスは、最近では気心の知れた同郷のトラキア人の女性に最低限の世話をさせることが常になっていた。周りには剣闘士仲間を中心に信頼できる者たちがテントを張り、見張りを立てているため、スパルタクスは安全が確保されながらゆっくりできるテント暮らしを悪くないと思っていた。

スパルタクスと反乱軍の名が上がることでスパルタクスに取り入ろうとする者が男女問わずふえてきたことで、スパルタクスと一般の兵士との間に距離を作る必要に迫られたための対応だった。

だから、会議が終わった後に自由に入って来れるはずもない場所へ、旧知の痩身の若者が、女性の横、椅子に腰をかけてスパルタクスを見て、笑顔で手をふってきた。

「カエサル、ここで何をやっている?」

静かな抑えた声でスパルタクスが駆け寄って質問をした。

カエサルは、そのたくましい手をとって、握手をしてから、

「無事で良かったよ。会って少し話がしたいと思ったんだ。スパルタクス。」

少しため息をついたスパルタクスは、ちょっと笑いうなずく。

トラキア人の女性に、食べ物と飲み物を持ってくるように指示してカエサルの前に座った。

「久しぶりだな、会えてうれしいのは私もだ。元気そうだな?しかし、どうやってここにきた?私たちに加わってくれるのか?」

気持ちを切り替えたスパルタクスの質問にカエサルは笑って答えた。

「私は元気だ。ドラベッラの追っ手から逃れてから、もう何年も経ってしまったが、ローマに戻ることもできた。そして仲間として合流したが、隠れて君の下に来るのは難しくなかったよ。それより私がここにきたのは、君を無事連れもどしてほしいというソルレイアの願いを聞き届けたくてね。」

「ソルレイア?元気にしているのか彼女は?」

「ああ、もう剣闘士というのがわらかないくらいにきれいに飾って店の仕事を手伝っている。」

「そうか、それは良かった。」と少しほっとした感じで笑う。

そこで、トラキア人の女性が酒と簡単な食事を持って入ってきた。

2人は酒杯を受取り、その後スパルタクスは女性に少し外に出ているように言った。

静かに再開を祝して乾杯をした。

少し口に入れてからカエサルが話を切り出す。

「もちろん、私も君がこの軍を投げ出すことはありえないと思っている。君はそういうやつだ。だがな、そもそも軍を率いて都市を荒らしまわるというのはどうも君らしくない気がしていたんだ。だから、反乱軍の状況を見て話を聞いてみようと思った。」

「そうか。しかしそう思ってここまで潜入されてしまうのは問題だ。」

「仕方ないさ、もともと鍛え抜かれた兵士たちでもない、急ごしらえの軍だろう。それにしてはしっかりしているんじゃないかい?」

「ああ、俺もそう思う。他の軍隊にも負けないくらいにな。それは全員の意識が同じ方向を向いているんだと思うんだ。抑圧された者たちの集団だからな。しかし君の言う通り、私は都市を荒らしまわりたいとは思っていない。自由になりたいだけなんだ。」

「では、私と一緒に自由を目指して逃げるかい?」

「いや、それはできない。私を慕ってくれている者も大勢いる。」

「そうだな。だが君が望んだ方向にいかない場合もあるだろう。」

スパルタクスは沈黙した。

「ここまでローマ群を撃退したんだ、イタリア半島に居座ってやろう、という意見が出てくると想う。そしてそれは君がしたいことでもなんでもないはずだ。」

「だからといって私を慕って来てくれたものも多いんだぞ!」

「そうだな。」

少し間をおいて、カエサルはスパルタクスに言った。

「昔、私たちで手を組んでローマから独立しよう、って言ったことがあっただろう。」

「ああ。」

「私は、ローマを力で制圧することはしたくないんだ。市民の一人として凄惨な殺し合いの時代をみていた私にとってそれは悪夢だからな。君にとって絶対にできないことはなんだ?」

「これまでも手を汚してきた。私は市民を殺すこともいとわないし、巻き込む事もいとわない。」

そういってカエサルを見た。

「だが私が進みたいのは、自由になることだ。ローマによって繋がれた鎖を自分の力でねじ切ることだ。ねじ切った後は、私自身が人を抑圧したくはない。森の奥で静かに暮らしてもよいし、海の近い街に住んでもよい。誰からも押さえつけられず、静かに暮らしたいんだよ。それと同時に自由になりたいと願う人たちをたすけてあげたい。」

「そうか、では、私が今君だけを連れて逃げようとしても君はついてこないかな。」

「ああ。」

「わかった。一人だけ私の仲間を君の近くにおかせてくれ。武術においては私以上だ。君の護衛と私たちの連絡用にもなる。」

「しかし、必要になるとは思えないな。」

「どうかな。ローマ軍を撃退することに成功しつづけたら、イタリア半島内で略奪を続けたいという者が増えると思う。その時に君が、自由を求めるなら助けが必要だろう。私の仲間は君が自由になるために手伝いをしてくれるはずだ。ローマの元老院と話を付ける必要があるかもしれない。他の連絡手段もあるかもしれないが、信頼できる君自身の連絡役がいてもよいだろう。」

カエサルが後半を強調するように言った。

スパルタクスはその強調に気付いていう。

「わかった。私自身が連絡役を持っているのは悪くない提案だと思う。受け入れよう。しかし、そこまでいうなら、カエサル、君自身がこの軍に残ってくれるといいんだぞ?そうすれば心強いんだがな。」

逆にカエサルをスカウトしようとして笑う。

「いや、奴隷の待遇には同情するが、私は君を助けること以外はこの軍に共感していないんでね。難しいな。」と言って笑った。

「わかった。」それ以上はスパルタクスも何も言わずに了承した。

それから2人は互いに連絡をとりあう方法、護衛兼連絡役の情報を取り交わす。

それだけ済むと痩身の若者は、スパルタクスに別れの挨拶をしてテントの隙間から静かに器用に抜け出していった。

スパルタクスを説得することはできなかった。

しかし、次に話を続けることはできたし、

仲間を置くこともできた。

現状で接点を持ち続けられることに満足したカエサルは

次に向かって動き出した。

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