カエサル、考え情報を集める
スパルタクスを救うと約束をしたカエサルは
どうやってスパルタクスを救うことができるかを真剣に考えはじめた。
珍しく、痩身の若者は一人でもの思いに耽っていた。
考えるときは、服をだらしなく着て、裸体をさらしながら酒を飲んでいるときが一番冴えている気がする、と考える若者はそのままの姿で椅子にもたれかかっていた。
昨夜は、貴族の旦那に見向きもされないで寂しがっていた若い女主人と共に酒を飲み、夜を明かした。そして、享楽を楽しんだ後、女主人をベッドに置きざりにして、頭だけを動かすために一人起き上がり、夜明けの薄暗い部屋で、一人女主人の自慢の林檎酒を軽く口にした。
女主人はイタリア南部の商人の娘で、金がなく没落しそうな貴族と金のある商人の父の政略のための結婚だったという。南の暖かで豊かな土地から、ローマの雑踏にきて貴族といえども豪奢な暮しができず、お金がかかってばかり。さらに奴隷には南イタリアよりも気を遣う日々で精神もすり減っていたという。
大都市ローマでは、市内の一等地に家を構えるだけでも金がかかり、奴隷の賃金も高い。奴隷なんだから金を払わなくてもいいなんてことは通用しなかった。ローマでは奴隷といえどもお金を得て、自由になることができることが多かったし、商業をなりわりとする家では、奴隷が自分の身を買い取って解放されて解放奴隷となって元の主人とよい人間関係を築くことも多々あったのだ。
奴隷たちは、戦争や金がないために運悪く奴隷という身分に落ちた人たちであり元来、同じ人だと考えるカエサルと奴隷は人に尽くすものと考える女主人で考えに差があったが愚痴をいう女主人の話を聞くだけで自分の主張はまったくしなかった。
物思いは、どうやってスパルタクスを助け出すか、だが大軍勢を率いている責任感が強そうな好青年であるスパルタクスが、その軍勢を置いて自分だけ逃げ出すという選択をするか、というとしないだろう。
奴隷を主とした反乱軍は南イタリアから北上するにあたり、付近の村や街を襲って食糧を調達しているという。そしてローマの都市のどこかが反乱軍に門戸を解放したという話も聞かない。
「もう少し状況が変化してくるのを待つか。」
そう一人で呟いて、憂うような気持ちで酒を再び口にする。
ローマ人に逆らった奴隷たちの行き先は殺されるか殺していきるかで降伏という選択肢はないはずだった。残った5万人にもなった反乱軍をローマが見逃すはずもない。そしてローマの諸都市も奴隷側に立つことはないため、北にひたすら逃げるか、しかし時期は秋から冬が近づきつつある。女子供もいる反乱軍としてはアルプスを超えるのは苦難の道になるだろう。流浪の旅をしたあげくに最終的にはローマに殲滅させられる可能性が高いか。
それか、どこかローマ以外の國や地域が支援を差し伸べるのを待つか。可能性は、スパルタクスの故郷、トラキアの部族、アドリア海の海賊くらいだが、反乱軍5万人を受け入れることはできないだろう。そうなると・・・。
反乱軍の終わりを自分なりに考えながら、スパルタクスが移動しそうな方角に検討を付けた。
女主人を優しく起こして、奴隷たちに準備させた朝ごはんを堪能してから、カエサルは館を後にした。
それから数日の間、カエサルはダインやジジとそれ以外にも数人の仲間を引き連れてローマ市内を駆けずり回った。キンナと話をしたり、母アウレリアと話をしたり、元老院の議員や護民官などさまざまなところに顔を出した。もちろんカエサルのこと、急いで周ることはせずに合間で街の知り合いの美人のところに行ったり、貴族の館にいる女性に挨拶と食事をしたり、時には図書館に行ったりと合間合間で自分の興味あることを十分に楽しんだ。
そして、何人かのしっている元老院議員たち、デクラ邸やクラッスス邸に行ったり、知り合いの家を巡ったり情報収集にも励んだ。傍から見ると元老院の権力者たちに挨拶をしているように見えた。そうして一通りローマ中を駆け回る。
カエサルの行動が活発化していることには、クラッススの部下や、元老院のカエサルを知り、行動を警戒していたデクラやハリオスと言った重鎮たちは、部下にカエサルから目を離さないように指示をしていた。クラッススは真剣にスパルタクスに意気投合して合流することを警戒していた。他の事情を知らない元老院の議員は、民衆派の象徴的な位置にいるカエサルが反乱軍と合流してしまうと反乱軍が手を付けられなくなるかも、ということを心配してもいたのだ。しかし、部下たちはカエサルがキンナや元老院の議員、護民官などの間をまわっていると聞き皆、安心をして、カエサルに翻意なし、と上司に報告をいれた矢先に、本人はローマ市内から姿を消したのだった。
スパルタクスを救うためにできることはあるのか?
反乱軍の状況を自分なりに考えつつ、
カエサルは策を検討しはじめた。




