ソルレイアの願いを聞く
ソルレイアはカエサルに内密で話をしたいと申し出、
カエサルは「ヌスパ」という言葉だけを残した。
カフェ・プラタリオでソルレイアとラフィアと話をしたその夜、カエサルはダインとジジを連れて秘密基地にいき、3人で酒を飲んでいた。
夜も遅くなり、道端を歩く人たちもへってきた時間になり、2人の影が秘密基地に現れた。
2人とも女性だ。
「カエサル、久しぶりだね!」
そう明るい声で話す人気の剣闘士は女っぷりもあがって裸のような飾りの鎧だけを身に着けていることがわかる。そのうえにマントを羽織っていたのだ。
ソルレイアのほうはローマの貴婦人が着るような服を羽織り、全体をマントで覆って女性とわからなくしていた。
ジジとダインが2人のマントを受け取り、保管する。
そして5人は一緒に席に座った。
「お時間いただきありがとうございます。カエサル。」
最初にソルレイアがカエサルに礼を言った。
「それにしても。」と次に口を開いたのはヌスパだった。
「カエサル、ソルレイアの話に、『ヌスパ』だけの回答は説明が不足しているよ。ソルレイアと話をして多分ここだろう、と思って来れたからよかったものの。」少し不満げに女剣闘士が文句を言う。
「でも、ここに来れただろう?」
茶目っ気たっぷりにカエサルがヌスパに言うと、歴戦の女剣闘士は口を膨らませて
「まあそうだけどさ。」と言った。
皆が笑って少し場が打ち解けた。
「いや、それより何か昼間で話が足りなかったか、秘密にして話をしたいことがあったかな?」
そう静かにいうカエサルにソルレイアは真剣な表情で言った。
「ええ、我が従弟スパルタクスの件です。剣闘士奴隷がローマに反逆をしたら死刑というのは存じておりますし、それだけのことを彼はやっていると思います。ただ、もし可能ならカエサルの力で、彼を取り逃がしていただけるとありがたいと思ってお願いをしに参りました。」
「そうか、そこまで見込んでもらってありがとう。実は私もスパルタクスに話がしたくてカプアに一度行ったのだが会うことができなかった。今彼はトラキア方面に軍を引き連れて逃げているそうだ。そのまま逃げ切れると良いと思うけど。」
「ローマ軍は奴隷達を逃がさないでしょう。」
「ああ、そう思う。逃がしたらより多くの奴隷の反乱や逃亡を生み出すに違いない。」
「そうですね。だから何があっても奴隷の反乱軍を鎮圧したいと思っているはずです。」
「ああ、そうでしょうね。」
「だから、カエサル、なんとか、スパルタクスを助けだしてもらえないでしょうか?」
「ソルレイア、あなたの気持ちはわかる。スパルタクスには私も救われたことがあるし、友として生きてほしいと思う。」
「カエサル、なんとかできないのか?」
女剣闘士もソルレイアに同調してカエサルに大変なことをお願いしてきた。
痩身の若者は真剣にソルレイアとヌスパを見る。
「私にできないことがあると思うのか?」そう笑いながら言うと、
「ユリウス・カエサルにできないことがあるのかな?」とヌスパが笑ってかえした。
カエサルはそれを聞いてニヤリと笑っていう。
「ユリウス、カエサルにできないのなら誰にもできないだろう。」
2人は笑って互いを見た。
ソルレイアが喜びで涙を流す。
「もちろん、剣士どのは手伝ってくれるんだろう?」
「えー、わたしがかい?仕事で忙しいんだよ。」
「その分の金は出すさ。」
「私の値段は高くなっているぞ。」
「問題ないね。」と軽く答えた。そしてコトバを続ける。
「とはいえ予断の許される状況ではない。ソルレイア、トラキアの方に何か繋がりのある人を紹介してくれないか。」
ヌスパが声をあげる。
「トラキア?」
「ああ、スパルタクスたちは、ローマではなく、北上してトラキアかガリアのほう、ローマの外に逃げていくつもりだ。」
「なぜそう思うんだい?イタリア半島にいるほうが裕福だろう?」
「ローマを襲ったりするのであれば兵を分けたりしないさ。2つにわけたってことは戦略的にローマ軍を挟み撃ちにしようとしたか、軍が増えすぎたためか、もしくは内部で意見の食い違いがあった。そして、ローマに攻め入ろうとしたか、挟み撃ちにしようとしたのかわからないが後にいたほうが執政官に破れた。そして今度はローマ軍が三方向から反乱軍を抑えにいっている。ローマを通らずアドリア海沿いにトラキアに向かうかアドリア海を渡って逃げるかしようとするはずだ。」
「なるほど。」
盤上のゲームのように予想をするカエサルに頷くことしかできない2人は納得した。
さらにいくつかの話をしたあとで、カエサルはソルレイアに気になることを質問した。
「ソルレイア、ラフィアはプラタリオの中でも中心的な人物で信頼に値すると思っているが、そこで話を避けたのは何か気にあることがあるからかい?」
昼の時点で話が出来ないことではないかと思ったカエサルがわざわざ別で呼び出したことが気になったのだ。
ソルレイアはそれに対して、
「これは私の勘の部分ですが、ラフィアはアッティクス様を尊敬、信頼しています。でもアッティクス様は根っからの商人。カエサル様の信頼が厚いことも知っておりますが、商人の本質は売れるものは売る、ということです。そのアッティクス様にスパルタクスの話が漏れるリスクを避けたまでです。」
「なるほど。アッティクスは信頼に値する男ではあるが、そういった配慮も必要だろう。その点について私が文句を言ったりアッティクスにわざわざ言ったりはしない。気を付けよう。」
そういってその日の話は終わった。
カエサルはソルレイア、ヌスパを帰した後、秘密基地に少しいてこれからのことを考えた。
ソルレイアからの願いはカエサル自身の願いでもあった。
勇敢で信頼にたるスパルタクスを救い出せるのだろうか?




