飢えた業
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
名曲を聞いて閃いた話。
君とっちゃ地獄だろうねぇ。僕にとっちゃ極楽だが。
空腹で目が回る。辺り一面に広がる芳醇な香りが、其れを一層酷くさせる。
あぁ……甘露を口にしたい。早く渇きを癒したい。欲望が腹から、ふつふつと湧き上がって、視界がとろりと溶けるのを感じた。
「何を我慢なさっているの? ほら早く」
女の妖艶な声が神経を優しく撫で回し、肩口を大きく晒し上げる。その扇情的な光景よりも、今は何よりも飢えを満たしたくて仕方がなかった。
声に促されるままに僕は大口を開け、肩口に顔を埋めた。しかしその途端、不意に理性が脳を引っ叩く。何を、はしたない真似をしているのか。今ならまだ引き返せる。と。
しかしそれさえも女の甘言は誑かす。
「どうせ貴方は人の身じゃないの。業を積み重ねた貴方はもう戻れない」
其の言葉を聞いた途端、肝心要の細い糸が、ぷつりと切り落とされるのを感じた。
一番、一番美味しいところ。太い血管が通っている血の源泉。それに尖った犬歯を突き立てて、そのままズブリとめり込ます。
黄金の蜜が口腔を潤し、舌の上を転げ回る。口の端を赤い線が伝うのを感じるが、今はそんなものはどうでも良い。ただただ、これに酔いたい。
女の体がびくりと跳ね上がるのを爪を立てて押さえ付け、舌先でまさぐる。離さない。飢えが満たされるまで決して。
“食事”を終えた僕は、ゆっくりと牙を引き抜いて、立てた爪を解きほぐす。意識が朦朧とする。まともな思考回路が起動しておらず、ただそのまま呆然と酩酊に絆される。
「君、人が話をしている隙に意識を飛ばさないでくれるかい?」
からんと軽快な音を立てて下駄が鳴く。その下駄の鳴き声に反し、声の主は苛立った口調で僕を現世に返す。前に居るのは骨董品の店主だ。
「いや、すまないね。昨夜の業を思い出していたんだよ」
知人に頼んで限界を迎える前に飢えを満たす。何度も繰り返した業の癖に何を純情ぶるのか、 というのは、僕の本能と彼女の言葉である。
「如何せん、此処の洋菓子を食べていたら思い出したんだよ。此処の美味しいだろう? 僕らの主食の様に」
ドグラ・マグラを体現した様な鈍色の喫茶が提供する洋菓子は、どれも外れがない。イチオシはチーズケーキだと謳っていたが、最近はどれを頼んで良いか分からない。
「それは否定しないね。どれを一口食べても底なし沼の様に虜になる。常に極楽を見せてくれる」
「僕らの世界は地獄でしかないのに」
「そうかい? 可愛い子達と添い遂げられる時点で、僕にとっちゃぁ、極楽さ」
オマケ
「もっと早くお呼びなさいよ。編集さん困っちゃうでしょうよ」
「血を飲んでない間は、人間に戻れた気がするんだ」
「だったらその妖艶な舌出し辞めなさいよ」
名曲がっさがっさして書くことも多いのですが。
えぇ勿論、著作考えて魔改造施してますが。
食事の葛藤といったら、この作家しか浮かびません。
でも人間だって食ってなんぼ。胃に入れてなんぼ。
殺してないから辛うじて許せているだけかな。
でも堪えた後にする暴飲暴食の背徳感って気持ちいいんですよ。
後に来る気持ち悪さの罰までも。
最後の『僕らの世界は地獄でしかないのに』というのは、死ねない地獄。生きる事に飽きた地獄です。
でも相手は骨董品の店主なんで、古の物と一緒に寄り添え続けるなら極楽だよ。
と返してます。
まぁ、考え方の違いですね。