おさがりのランドセル
僕には7つ上の兄が居た。
――そんな兄弟の小さな想い出。
▫▫▫
「ねーね、ランドセルが欲しいよぉ!」
小学生に上がる前、僕はそう両親に頼んでいた。
みんな、新しいランドセルを買って貰っていたから、つい欲しくなった。
「ねえ、珠希。俺のランドセルじゃ嫌かな」
兄がそう言ってなだめる。
「おにーちゃんの、おんぼろだもん!」
「……おんぼろ、おんぼろねぇ」
兄が苦笑する。
「こーら、珠希。そんな事言わんの」
母が言う。
「買ってよぉー!」
「どうしたもんかねぇ……」
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まあそんなこんな、数日が経った頃。
「……ねえ、お父さん」
「どうした、晴希」
兄は、とある雑誌の切り抜きを父に渡す。
「……ランドセルの修復屋?」
父が言うと、兄は頷く。
「先生に事情を話したら、この切り抜きを渡してくれたんです。何か役立つかもって」
使い古したランドセルを、ほぼ新品まで仕立て直す職人が居るとの事だ。
「……ほうか、そういう手もあるのか。それじゃあ、頼んでみるとするか」
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それから、僕の誕生日。
「珠希、ランドセルよ」
母がラッピングの箱を渡す。
「ほんとぉ?」
開けると、青いランドセルがある。
「……これ、おにーちゃんのに似てる!」
「それな、俺のランドセルを直して貰ったんだ。新品じゃ無いけど、このランドセル……珠希に使って欲しくてさ」
そう言って、僕の頭を撫でる。
「……もう、俺は長くないから」
▫▫▫
僕の誕生日から、半年後。
兄は病気で天国へ旅立った。
ランドセルを使わせて欲しかったのは、僕の傍に居たかったからなのか……と今になって思う。
今でも、僕の近くにあの時の『ランドセル』が置いてある。
ありがとう、兄ちゃん。
もし僕に子どもが出来たら、このランドセルを使わせてね。