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最終ページ

八月十二日(金)

 真治へ。お母さんです。

 何かひょんなことから始まったトランペット交換日記ですが、ノートがもう終わりなので、今日でおしまいです。

 真治と離れて暮らすようになってから、もう五年が経つんですね。そちらの生活にも慣れましたか?

 薄々感じていたと思いますが、真治は智成さんと私の実の子ではありません。今まで『小野寺の正行おじさん、知美おばさん』と呼んでいましたが、お二人が本当のお父さんとお母さんです。

 智成さんと私は大学で知り合い、そして恋愛結婚でした。とても幸せでしたが、でもそれは、智成さんが許婚との結婚を断ってくれたからでした。それを私は、結婚するまで知りませんでした。

 やがて生まれた長男・智行は、藤門会のしきたりに従い、島山家の養子となりました。ちょっと年が離れていたので、真治と真衣には怖いお兄さんだったかもしれません。でも二人のオムツを替えてくれたり、面倒をよく見る優しいお兄さんなんですよ。

 五号店は元々智成さん一代限りで許可された店でした。それが私のお腹にいるのが女の子だと判ると、そのまま小野寺家の店として分家・継続させることになり、まだお腹にいた真治、あなたが真衣の許婚に選ばれました。

 これには智成さんも怒って、藤門会のおばあ様とだいぶやりあってしまいました。その後、私の名前から一字取って、名前を『真治』にするなら一緒に住んでも良いとお願いした所、許可されました。

 これも、小野寺家の男の子は、みんな『智』の字が付くので、実家に帰った今の真治には、違和感があるかもしれません。余計なことをしたと思っています。ごめんなさい。

 私は智成さんと相談して、真治と真衣は兄妹として育てることにしました。当時中学生だった智行に、私が、余計なことを真治と真衣に言わないよう、きつく言ったことが、兄妹で不仲な原因になってしまったと悔やみました。本当にごめんなさい。

 それでも小さい二人は、本当の兄妹のように仲良く育ってくれて、真治は本当にお兄さんらしく、真衣を守ってくれましたね。

 でもそれも、小学校に上がってクラスのみんなが誕生日のことを話題にするようになると、察しの良いあなたは、年子の割に誕生日が近いことに気が付いたのか、真衣のことを妹と言わなくなってしまいました。そんな様子を見ていた真衣も、あなたのことを兄と呼ばなくなってしまったのを、私と智成さんは、どうすることもできませんでした。早く本当のことを言った方が良いか相談している最中に、智成さんは天国に逝ってしまい、私は何もできず、このノートに書いている次第です。

 智成さんが亡くなって、小野寺家のやり方に耐えられなくなった私は、旧姓に戻すとおばあ様にお伝えした所、五号店存続の件は無しとなり、真治も実家に戻ることになりました。だからあなただけ小野寺の姓なのです。

 あなたを本当の子供だと思って大切に育てて来たことは信じて下さい。今でもあなたが私のことを「お母さん」と呼んでくれていることに感謝しています。智成さんも最後まであなたのことを、本当の息子だと思っていました。大事にしていたトランペットをあなたに譲ったのは、その証だと思って下さい。

 七回忌までは社員寮として使っていたアパートに住んで良い約束でしたが、そのため中学では真衣とあなたは同じになってしまい、真衣があなたと付き合っているような感じになっていると聞き、あなたが悩んでいるのではないかと一人、気を揉んでいました。

 昔からあなたは隣の香澄ちゃんのことが好きでしたものね。いじめられた二人のためにやり返して、二人のために一つづつリボンをプレゼントしたのに、真衣が二つとも使ってしまって、ツインテールにしているのを知っています。

 あなたがピアノ教室に行きたいと言ったのは、本当は香澄ちゃん家ですよね。でも、おばあ様の家にあるピアノを使うように言われて、一人で練習はつまらないから、わざわざ真衣と練習することにして、いつも迎えに来てましたよね。

 桃木が花を咲かせた時は、花を見る振りをして、香澄ちゃんの部屋を見上げていましたもんね。

 中学で部活に香澄ちゃんがトランペット希望で来たのに、あなたのトランペットを真衣が取り上げてしまって、貸せなかったんですって? それも知っています。真衣が香澄ちゃんの第三希望にクラリネットを持っていると丸印を付けたから、クラリネットになっちゃったのも知っています。

 そんな奥手のあなたが、香澄ちゃんと仲良くなったと聞いて驚いています。きっと優しいあなたのことなので、香澄ちゃんを大事にすると思いますが、小野寺家、藤門会のしきたりのことは、香澄ちゃんの負担にならないようにしてあげて下さい。私は智成さんと結婚できて幸せでしたが、それは智成さんが生きている間だけでした。もちろん後悔はありませんし、今でも智成さんを愛していますが、進藤の姓に戻しましたし、私も、真衣も、これから新しい人生を歩みたいと思います。

 来年の三月にこっちの小学校近くにも中学校が開校して、今の中学から分校するので、あなたが三年になる時に、真衣も香澄ちゃんも、こちらの中学に通うことになるでしょう。

 あなたがどこで藤門会のしきたりを聞きかじったのか判りませんが、英語だけ極端に点数が低いのは、どういうことでしょうか。情けない母親が言う資格もないかもしれませんが、もっと自分の人生を大切にして、これからの人生を自分の力で切り開いて下さい。生まれや育ちは自分では選べませんが、それを理由に腐ることはありません。私や東京のおばあちゃんが東京大空襲で死んでいたら、そもそも今のあなたは存在していません。元気で生きているだけで奇跡だと思いませんか?

 あなたが良き友人達に囲まれて良い人生となることを祈ります。

 七回忌を区切りにして、私も再婚しようと思います。真衣も連れて行きますので、できれば真衣はこれからも妹として接して下さい。

 真衣のこと、いつも守ってくれていたことも知っています。

 いつも宿題を手伝ってあげていたこと。真衣が弾くはずだった曲を、おばあ様にばれないよう、代わりに練習していたこと。でも、これは優しさとは違いますよ。気を付けましょうね。

 智成さんが亡くなった後、お年玉を使わずに、真衣のためにお誕生日ケーキを買ってくれたこと。クリスマスにはサンタさんになってくれたこと。お小遣いを貰わないでお店のお手伝いをしていたあなたにとって、お年玉は唯一のお金だったのに。本当にありがとう。

 智行とお金を出し合って、トランペットを買ってくれてありがとう。口留めされていたので、私が真衣にすごく感謝されたけど、本当はあなたに感謝して欲しかったです。真衣が飛び上がって喜んでいるの、あなたに見せてあげたかったです。

 それなのに、あなたのトランペットの方が良いからと、部活を引退したら真衣に譲ることを聞きました。本当に遠慮しなくて良いのですよ。あなたが智成さんのために、必死にトランペットを吹いていたのも知っています。だから、智成さんも真治が引き継ぐことを望んでいると思います。

 最後のページでと言って書き始めたら足りなくて、裏表紙まで長々と、小さい字でごめんなさいね。お母さん、国語点数低いですね。

 真治は交換日記について、最後に受け取った人が読んだ後、焼却処分をすると香澄ちゃんから聞きました。色々と書きましたが、安心して渡せます。ちゃんとお願いしますね。

 きっと高校受験で戸籍を見た時には、全部判ってしまうことなので、この機会を利用させて頂きました。最後まで突然で本当にごめんなさい。

 今日まであなたのお母さんでいられて、本当に幸せでした。ありがとう。


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