チョコ味
地下道を抜けた先に『たい焼き屋』がある。本当は喫茶店の入り口横に、たい焼きの販売コーナーがある訳なのだが、真治はそこで、たい焼きしか買ったことがない。お祭り以外でたい焼きを買えるのは、この辺ではココだけなので、貴重な存在である。
「ちょっとたい焼き買ってて下さい」
珍しく、香澄が真治にリクエストした。
「良いけど。何にする?」
聞かれた香澄は、在庫を確認した。
「じゃぁ、チョコで」
「判った」
あんこのたい焼きは在庫ありだが、チョコ味は注文を受けてから焼き始める。時間稼ぎにはもってこいだ。しかも、まずはカウンターから、奥にいる店主を呼び出す所から始めなければならない。真治が『すいまっせーん』と言っているのを横目に、隣のレコード店に香澄は飛び込んだ。
目的のレコードは店先にも売っていたが、それを見逃してしまった人の為にも、店内の一番目立つ場所に積んであった。香澄は『英語と漢字じゃん』と思いながら、青いジャケットを手に取り、奥の会計に持って行った。
「お願いします」
眠そうな主人が客の相手をゆっくりとしている間、香澄は店の外から真治が覗き込むのではないかと、びくびくしていたが、その様子はない。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
香澄はカバンを片膝で下から支え、蓋を開けて待っていた。包装紙に包まれたレコードを受け取ると、素早くしまった。そして何も買わなかった顔をして外に出た。
真治は二尾あるたい焼きの内、片方を躊躇なく香澄に渡した。
「はい。チョコ」
「こっちなの?」
真治はいつもあんこである。つぶあんでも、こしあんでもどっちでも良い派である。まぁ、つまり在庫があれば端からである。
「どっちもチョコだから」
「あら珍しい」
お行儀悪く、二人は歩きながら食べ始めた。確かにチョコである。
「今日は揃ってチョコ食べたかったんだ」
真治は時々嘘を付く。本当は店主に『二個?』と聞かれて『はい』と答えてしまっただけだ。
「本当は間違えちゃっただけなんじゃないの?」
香澄は時々嘘を見破る。でも本当は、たまには真治が、自分に合わせてくれていたら嬉しいなぁ、と、思っている。ちょっとした夢だ。うん。
「違うよー」
香澄は真治の目をじっと見た。
「チョコも美味しいね」
自然な言葉が続いた。香澄は真治の目を見て、嘘ではないと判った。笑顔でチョコのたい焼きを口にし、横目に真治を見る。いつもより、あまーく感じた。




