テスト期間・中二の夜
真治はかわいい姿の香澄に腕を引っ張られ、揺れるスカートから目を逸らしつつ、にやけながら家の中を歩いた。かわいい笑顔を振りまかれ、にやけながら頷いた。無事美味しいカレーを頂き、楽しいおしゃべりをして、にやけた。そして遅くない時間に、名残惜しくも明るく手を振って、香澄の家を後にした。にやけていた。もちろん帰り道も、ずっとにやけていたのは間違いない。
そんなこんなで、上機嫌の内に家に帰ったのであるが、そこから先はいつも通りだった。両親からあれやこれやと散々言われ、にやけは一つ、また一つと、どんどん亜空間に滅却されて行った。
自室に戻るまでに大声で『はいっ』と答えた数、丁度百八回。偶然にも今日の煩悩の数と、まったく同じだった。故に、香澄のかわいい姿も、かわいい仕草も、かわいい笑顔はもちろん、ちょっと尖がったかわいい唇も、しゅっとしてパタパタしていたおみ足も、ぴょんと見えた足先も、うなじから滑らかな曲線を描くなで肩からの二の腕も、良い香りのする揺れる長い髪も、柔らかな手も、その手を握った温もりも、握り合った手の中で踊っていた指の感覚も、全てと言ったら全て滅却して、昇華した。
ララー。
そして、健やかなる中学生として、静かな夜を迎えた。
真治はカレンダーで日付と曜日を確認し、明日の時間割を見た。六教科分の教科書とノートをカバンに入れ、体操服も準備した。間違いがないか二度確認すると、静かに微笑み、穏やかな気持ちになって眠りについた。
お陰でその晩、真治はめでたい『富士』の夢を見た。それは神田市場にある、一番静かな競り場でのことだ。クラウンメロン生産者番号二桁台の『富士』。六個入り一箱。伝説の一品を、仲卸強豪三社に競り勝って、ものにしたのだ。
それは夢の中で香澄にプレゼントした。香澄は凄く喜んでくれて、瞳を輝かせて抱き付いて来た。そして、何度も何度も柔らかな唇で、キスをしてくれた。
合掌。




