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テスト期間・英語はどうする

 真治はいつも他のお客様にカートを使ってもらおうと思っているので、黄色いかごだけを手にした。持参した買い物かごと、スーパーの黄色いかごを持った真治の姿を見て、香澄は口をへの字にする。どちらか持つと言ったのに、どちらも持たせて貰えない。

 そこで、無理やり黄色いかごの方の、片方の取っ手を取ってみた訳だが、三歩も歩く内に、香澄は凄く楽しくなってきた。満面の笑みを浮かべ、一歩毎に上半身を左右に振って歩き始める。それにつれ、長い髪と、短いスカートが、真治の前でゆらゆらと揺れていた。香澄はメモを見る度に振り返り、次の商品が置いてある場所を真治に教えながら、店中を引っ張り回したのだ。

 そして帰りの並木道でも、買い物かごの取っ手を片方づつ持って歩いている。

「今日は何時までいられます?」

「うーん」

 香澄は真治の顔を覗き込んでいる。真治は考えていた。一人で友人宅にて夕食をしたことはない。親戚の家ならあるけれど。

 そんな真治の様子を見て、香澄は理解する。真治が黙っているのは考えているからだ。自分のことではなく、今は香澄のために、正確な答えを求めているのだ。誠実? いや、慎重? ある意味マイペース。面白い人だ。

「夕飯っていつも何時なんですか?」「九時かな」

 ほらね。自分のことだと、聞かれれば直ぐに答える。香澄は面白くなって来て、また上半身を左右に振り始めた。

「え、随分遅いんですね。じゃぁ九時位まで?」

 横に振った上半身が真治の方になるタイミングで、シュッと真治の顔を覗き込んだ。楽しそうに笑っている。『悪い』って言うよ。

「いやぁ、そんなに遅くまでお邪魔しちゃ悪いでしょ」

 真治は真面目に答える。香澄は予想通りだと思っていた。またシュッと真治の顔を覗き込む。今度は目をピクリとさせた悪戯っぽい顔だ。

「泊って行っても、良いんですよ?」

「いやいやいやいや」

 真治は息を詰まらせ、慌てて答えた。香澄は右手を口に当てて笑っている。香澄は上半身を振るのを止め、やさしい笑顔になって真治に言った。

「お布団ありますからね。まぁ、それは冗談として、ゆっくりして行って下さい。私も料理手伝うので。トランペットの練習するなり、テスト勉強するなり」

 そうだ。今はテスト期間なのだ。明日から期末テストが始まるのだ。

「じゃぁ、トランペットの練習しようかなぁ」

 真治は迷わず答えた。香澄はちょっと驚き、念押しに気味に言う。

「余裕ですねぇ。英語の勉強した方が、良いんじゃないですか?」

「んー。英語は良いかなぁー」

 普段の真治からは考えられない諦めの言葉だった。英語を生活の中で使って来た香澄は、ちょっと悲しくなる。

「そんなに英語嫌いですか? 将来、凄く使うかもしれませんよ?」

 疑問形だが、絶対使わせる。香澄は真治をどこまでも引っ張って行く気だ。ただ、真治は、あくまでも日本で生活することのみを、考えているようだ。

「そうだけどっさー」

 真治は困った顔をした。英語ねぇ。誰か自動翻訳してくれないかなぁ。

「じゃぁ、こうしません? 私が英語の問題出しますから、解いて下さい」

「小石川さん、英語得意なの?」

 前を向いていた真治が、驚きの表情で香澄の方を向く。香澄は、失礼だと思ったかのように、眉をちょっと動かす。

「はい。外国生活長かったので。今でも英語で手紙書いて、やりとりしてます」

 香澄は顎を上げて、ちょっと得気に言う。真治は驚き、素直に信じた。

「すごいなぁ。俺、サンタにしかないよ。じゃぁ、ちょっとチャレンジするか!」

 香澄は嬉しくなる。サンタの件は置いといて、頼むなら、今がチャンス!

「代わりと言っちゃー何ですがー」

「なんでしょう?」

 真治は首をかしげて香澄を見る。ちょっと深刻な顔からのお願いとは?

「英語以外の教科、教えてください!」

 香澄は片目を瞑り、右手だけでお願いのポーズをした。真治は安心する。

「え、あぁ、良いけど。ギブ・エーンド・テイク! ですね!」

「はい。持ちつ持たれつです!」

 二人は笑顔で言い合った。真治は、ヒュッと人差し指で香澄を指す。

「お、小石川さん、国語、得意じゃないですかー」

 香澄は口を尖がらせる。そして、苦言を呈す。我慢の限界だ。

「あ、また言った。もー」

 急に香澄の機嫌が悪くなる。真治は驚いた。香澄に嫌われたくはない。

「え? 何? どした?」

 真治は何だか判らなくて困っている。香澄が直ぐにその理由を言った。

「さっきまで私のこと『香澄さん』って呼んでくれていたのに『小石川さん』になっていますよ? もぉー、すごぉぉく、嬉しかったのにぃぃっ」

 香澄は目を大きくし、裏切り者を見るかのように真治を見る。

「あら、そう?」

 真治はどこで『香澄さん』と言ったのか、思い出そうとしていた。しかし、思い出す程の時間を貰えない。香澄が右手を振りながら真治に言い放つ。

「そうですよ。『小石川さん』って言ったら、英語の難易度上げますよ!」

 そう言うと香澄は目を大きくして、妙に『にっこり』と笑った。

「いやいや、それはないでしょ」

 真治は慌てて香澄を覗き込む。笑っているが、目が本気だ。言葉に詰まる。

「ん?」

 香澄はそう言って小首をかしげて真治を見た。さて、私は誰でしょう。

「香澄さん」

 真治は言わされた。香澄はまた、上半身を左右に揺らし始める。

「良くできましたぁー」

 香澄は機嫌良く前を見た。真治はどこで『香澄さん』と言ったのか、まだ思い出せずにいたが、髪とスカートを揺らしながら機嫌良く歩き、時々真治を見つめて笑ったり、照れたりしている香澄さんを見て『まぁ、良いや』と思った。

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