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テスト期間・誕生日を聞く

 二人は昇降口で待ち合わせして学校を後にした。日はまだ高い。授業が終わって速攻で勉強をしに帰る者が殆どで、校門付近は人もまばらである。

 それでも、ネットとボールの準備をしたけれど、部活がないと判って片付けてから帰るテニス部員とか、ゴールにネットを張ったものの、部活がないと判って、片づけてから帰るサッカー部員とか。

 前を歩く仲良し二人を見て、真治が勝手に解説している。香澄はそんな真治を、呆れた顔をして見上げると、同類がもう一人いると思った。

「トランペットを泥棒して帰る、吹奏楽部員とか?」

「自分のだから」

 早口だった。真治は左手に持ったトランペットケースをブンブンした。いずれにしても、まぁ、そういう人達が残っているだけだ。多分。

 二人の前を、ラケットケースを持った生徒と、サッカーボールを持った生徒が、楽しそうに会話しながら仲良く歩いている。遠慮して真治と香澄も距離を開けているが、誰だか知らない二人である。

 実はこの中学、全校生徒千五百名を超えるマンモス校なのだ。同学年だけで五百名もいるものだから、全員の顔と名前何て一致しない。そんなことができるのは、校長先生位だろう。ねっ。

 前の二人を羨ましく思ったのか、香澄が聞いてくる。

「小野寺先輩の誕生日って、何月何日ですか?」

 突然の質問に、真治は目を大きくし、口をへの字にする。

「お正月!」

 短く答えて前を向いた。香澄の笑顔は見ていなかった。

「えっ! 一月一日なんですか? 年明けに、年齢プラス一歳ですか?」

「あー、そういうカウントするなら、誕生日は一月二日になるのかな?」

 真治は前を向いたままだ。香澄は不思議に思った。首をかしげて真治に聞く。

「そうなんですか? お誕生日に、年齢プラス一歳ですよね?」

「違うよ。年齢プラス一歳は誕生日の前日だよ」

「そうなんですか? 何かおかしくないですか?」

 真治は苦笑いして香澄を見る。香澄は不思議そうな顔をしていた。

「一年三百六十五日として、三百六十五日生きていたら、何歳?」

「一歳じゃないですか? 一年だし」

 当然のように香澄は答える。真治は最初から当然のような顔だ。

「じゃぁ、一月一日に生まれた人が、三百六十五日生きたら、何月何日?」

「十二月三十一日です。えー嘘だー」

 凄く不満そうに香澄が答える。真治は香澄を指さして笑った。

「ほらぁ、誕生日の前日に、一歳年取るじゃん」

 香澄も理解したみたいだが、いまいち納得できない。

「えー、誕生日の前日に『二十歳おめでとう!』とか、やらないですよー」

 真治は笑っている。それはそれ、これはこれだ。

「まぁ、誕生日を祝っているだけで、本当は前日から、お酒飲めるんだけどね」

 悪い奴でなければな。渋い顔のまま香澄が聞く。

「じゃぁ『十代最後だ!』って、誕生日の前日に遊んでいたら?」

「残念! それは、既に十代ではない!」

 香澄と真治は苦笑いになった。

「みんなそんなの、考えていないですよー。何か嫌ですよー」

「そーんなこと言われてもー。好きにすれば、良いことじゃないですかー」

 不機嫌顔の香澄が、気を取り直してぶり返してきた。

「でも、誕生日がお正月なんですよね? 珍しくないですか?」

 真治はこっちを見てくれない。何だか事務的だ。

「いや全然、小野寺家は全員、一月一日に年を取るんだー」

 当然のように答えた真治を見て、逆に香澄の目が丸くなる。

「凄い! 何という偶然! それは新聞に載りますよ!」

 目を輝かせて驚く。きっと香澄の頭では、全国紙一面トップの記事が、思い浮かんでいるのだろう。大げさだ。精々地方紙の地域ニュースに小さくだ。

「て、ことは? やぎ座ですね!」

 真治は苦笑いして香澄の方を見た。やっぱり判っていない。説明が必要か。

「誕生日聞いて、どうするの?」

 念のために聞いてみる。香澄は笑顔で答えた。

「二人の相性占いです! 気になるでしょ?」

 真治はそっちかと思って、苦笑いする。どうやら両親が種を仕込んだ日を、逆算するのに使う訳ではないようだ。確認しなくて、良かったー。

「あー、そういうのありましたね。家だとね、誰も気にしないの。そういうの」

 盛り上がりに欠ける真治を見て、香澄も少しだけ気持ちが判った。

「まぁ、全員お正月生まれだったら、って、本当に本当ですか? お誕生会はどうするんですか?」

 真治が首を竦めて答える。やっぱり事務的である。

「え? お誕生会? しないよ? だって、お正月に全員年取るから、特におめでたくもないし、お正月はおせち料理で、ケーキはないし」

 香澄は口を尖らせた。

「そうなんですね。何か気の毒な感じ。あれ? でも、桜の季節かな? もうちょっと後だったかな? 真衣ちゃん『お誕生日ケーキ、初めて食べた!』って、もの凄く嬉しそうに言ってたこと、ありましたよ? 真衣ちゃんだけ、お誕生日が、お正月じゃないんですか?」

 真治が口を尖らせる。真衣め。余計なことを喋ったな。

「もう真衣は『小野寺家』ではないから、そうなんじゃない?」

 香澄が不思議そうな顔をして、キョトンとしている。首をかしげて考えている間、目のパチクリが止まらない。やっぱり判らなくて、真治の方を向いた。

「小野寺家でなくなると、誕生日って、移動するんですか?」

 真治が苦笑いする。そんな訳はない。『こち亀』じゃあるまいし。

「まぁ、正確に言うと、誕生日って訳じゃなくて、お正月に全員年を取る『数え』方式ってこと。聞いたことない? 昔の本とかでさ『数え何歳』とか」

「なんですか? それ。聞いたことないです」

 結局の所、香澄は騙されていたのか。いや、真治は最初から『誕生日』を答えてはいない。いつも『嘘』にはならないよう、慎重に言葉を選ぶ。

「生まれたら一歳で、お正月毎に全員年を取る数え方が『数え』だよ」

「えー? それじゃぁ、大みそかに生まれた人は?」

「生後二日目で二歳だよ」

 香澄は『ブッ』と吹き出した。

「えー、それ、不公平じゃないですか?」

「そんなこと言われても『小野寺家』では、まだそうなんだからさー」

「ちょっと待って下さい! じゃぁ、本当の所は、何月何日なんですか?」

「さぁ、知らないなー。誕生日お祝い、しないしー」

 真治は笑ってすっとぼける。その笑顔を見て、香澄も笑った。

「嘘でしょ? じゃぁ、何座ですか?」

「ぎょう座!」

 定番だ。他にも『便座』これは嫌だな。『歌舞伎座』『南座』この辺なら。

「そんな星座、ありませんよー」

 バレたか。仕方ない。実在する星座を答えよう。

「じゃぁ、カシオペヤ座!」

「そんな星座も、ありませんよー」

「えー、ありますよー」

「あるけど、ありませんよー。ちゃんと教えてくださいよー」

「嫌ですよー。何座だか知らないですよー。勘弁して下さいよー」

 二人共笑っている。香澄がちょっと考えて言った。

「じゃぁ、出席番号、何番ですか?」

 中学の出席番号は、誕生日順なのだ。

「知りませーン」

「えー、それは嘘ですよー。前半ですか? 真ん中ですか? 後半ですか?」

 真治が悩んでいる。そう来たか。うーん。考えるんだ。

「普通です!」

「普通じゃないですってー。それじゃ判らないじゃないですかー」

 教えていないのだから、当然だ。真治は思い出した。

「判った。『二人の関係を壊す恐れがあるので、お答えできません!』です!」

 笑顔で答えた。これなら文句はあるまい。しかし、香澄は諦めない。

「ずるーい。私の真似じゃないですかー。オリジナリティが足りませんよぉ」

「いいじゃないですかー。最初に提案したの、俺なんですからー」

 それを聞いてやっと諦めたのか、笑顔の真治を見て、口を尖らせる。

「んー。しょうがないなぁ。判りました。今度、真衣ちゃんに聞いてみます」

 真治が香澄を見た。顔が真顔になって、それから香澄を睨み付ける。

「聞いたら絶交」

 早口で静かな声だった。香澄は混乱した。小学生じゃあるまいし『絶交』なんて言われた。そんなに酷いことをしたのだろうか。香澄の顔からも一瞬にして笑顔が消えた。真衣に聞いたら、本当に二人の関係が壊れるのが判った。

「ごめんなさい」

 香澄は反省した。真治が笑っている内に、話題を変えなければいけなかったのだ。怒らせたら、終わりなのだ。本当に終わるのだ。

「話しても良いと思ったら、俺から話すからさー」

 いつもの口調に戻っていた。香澄は何度も何度も頷くと、真治の顔に笑顔が戻った。香澄もつられて笑顔になったが、前を向くと真顔に戻っていた。怖かった。もの凄く。そして、安堵した。今回は壊れなかった。しかしそれは、初回限定かもしれない。そう思った。真治の星座は、カシオペヤ座にするしかない。勇気を出してそっと真治を見たが、いつもの真治に戻っていた。


引用

秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』

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