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テスト期間・コソコソと

 香澄と真治は、怒られない内に、薄暗い音楽室を出ることにした。扉の所までやってくると、真治がトランペットケースを床の上に置き、窓枠の所に手を添えた。力を入れて上に持ち上げると、引き戸の扉がレールから外れた。

「何てことしてるんですかー」

 入室する時も見たはずだが、もう一度言われた。

「内緒だよ?」

 真治は人差し指を口に当てて、香澄に念を押した。

 二枚引き違いの引き戸を閉じた時、かけ金と南京錠で閉鎖されているが、かけ金を蝶番のように動かしたのだ。引き戸もびっくりしているだろう。人一人分通れる隙間ができたら、そこで止める。真治はトランペットケースを手にすると、左手で仰々しく隙間を指し、腰からお辞儀をしながら香澄に言う。

「レディーファーストで」

「ありがとうございます」

 香澄もスカートの両端を両手でちょんと吊り上げ、左足を後ろに引いて優雅にお辞儀をした。そして元に戻ると、壁の方を向いて、優雅とは程遠い恰好で、狭い扉の隙間を通り抜けた。それを見て真治も続く。先に出た香澄は渋い顔だ。真治の様子を見て言った。

「もう、泥棒みたいですねぇ」

「自分のトランペットを回収しただけですよ!」

 随分と失礼なことを言われたと感じたのか、真治は眉を吊り上げて答えた。そして、再びトランペットケースを廊下に置き、扉を器用に持ち上げて元に戻した。音楽室は無事? 再び閉鎖された。

「鍵の意味が、全然ないじゃないですかー」

「そーんなことないよ。何を言ってるのー」

 そんな風に、鍵なしで侵入した真治が言うものだから、香澄は笑った。毎朝毎夕、音楽室の鍵を取り扱っている者の言うことじゃないと思った。

 真治はパンパンと両手を叩くと振り返り、香澄に聞く。

「ところで、何で音楽室に来たの?」

 聞くのが遅かったかもしれない。今日から試験休みで、部活がないのは前から掲示板に貼ってあったはずだ。聞かれた香澄は、きょとんとしている。

「あ、判った。試験休みって忘れてて、部活に来ちゃったんでしょー」

 真治が笑いながら香澄を指さして言った。香澄は随分と失礼なことを言われたと思ったのか、少々怒り気味に、右手を振りながらそれを否定する。

「小野寺先輩じゃないんで! 私、そんなに部活好きじゃないし!」

 香澄が言い返す。言われた真治は心外なことを指摘されたかのように、目を見開いて驚いているが、顔は笑っている。香澄も悪戯っぽい顔になった。

「それに、先に来てたのは、小野寺先輩じゃーないですかぁ」

 実は、その通りである。真治は今日から部活がないことを知っていた。だから音楽室にやってきたのだ。事実を指摘された真治は、答えに困った。

「絶対、ピアノ弾こうとしてましたよね?」

 ひゅっと香澄に指さされた真治は、逃げるように廊下を歩きだす。

「してない。してない」

 真治はトランペットケースを横に振って否定した。香澄が追いかけて来る。

 音楽室に来た真治は、トランペットの棚からマイトランペットを出そうとしたが、仲間のトランペットの下になっており、一度全部外に出さないとダメだった。やっとのことでマイトランペットを出して机の上に置くと、引き続き、抜き足差し足忍び足でピアノの前まで来た。

 その時、入り口からピョンピョン跳ねて中を覗き込む香澄の姿が横目に見えた。仕方なく入り口まで戻って真治がそっと外を覗き込むと、何を思ったのか、香澄がシュッと隠れた。それを見た真治が『よし、誰もいない』と演技をして中に戻ろうとしたものだから、香澄が慌てて『中に入れてくださいよ』と飛び出し、今に至るという訳だ。

「また聞きそびれちゃったかー」

 真治に追いついた香澄が、残念そうに言い、ちらりと真治を見る。真治は知らんぷりをして言葉を遮った。前を向いたままだ。

「トランペットを回収しに来ただけだよ」

 真治の自宅に今はピアノなんてない。悲しくも、それは事実である。

「何で音楽室にいるって、判った?」

 真治が香澄に聞いた。ちょっと不思議だった。香澄は苦笑いする。

「階段からぁ、トランペット泥棒しているのがぁ、見えましてぇ」

 見てはいけない所を見てしまったので、香澄は笑顔で飛んできたのだ。

「あー、見えちゃった、かー」

 真治はおでこをパチンと叩いた。今日のミッションは失敗。否、大失敗だ。

 コの字型校舎の三階行き止まりにある音楽室は、授業がない時は誰も来ず、ひっそりとしている。電気を消してコソコソしていれば、静かな練習時間を過ごすことができるのだ。しかし、本校舎の階段から見えるとは。迂闊だった。

「今度から気を付けるよー」

 真治は真顔で反省の弁を香澄に述べた。しかし、香澄の顔から笑顔が消える。

「ダメですよ! 鍵借りないと!」

 香澄に真顔で言われ、真治は頭を掻いた。ごもっともでございます。


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