表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/67

月曜日・職員室

 真治は渡り廊下を『ダン』してからの着地は、両手を真っすぐ上にあげ、微動だにしない精度だった。決まった。十点零零だ。あと、バク転は練習中だ。

「失礼します」

 そう言って職員室に入った。念のために言って置くが、今日は失礼をするつもりは、ない。入ってすぐの所には壁に窓があって、靴を履いたままの人との受付ができるようになっている。その奥に各種教室の鍵をかける所があって、真治はそこに向かった。失礼をすると言ってから、三秒以内である。

 職員室にはまだ数名の教員が事務をしていた。その中に吹奏楽部顧問の村田もいる。村田には、失礼な真治が来たのは、一連の音で判る。顔をあげた。

「ご苦労さん」

「鍵閉め終わりました」

 真治は一礼して音楽室の鍵を所定の場所に戻す。やっぱり真治だった。村田は机に向かう。事務をしながら真治に聞く。

「欠席多いのいる?」

「そうですねぇ。クラリネットの北山さん、フルートの澤山さんが、先週の木曜日からお休みですね」

「そうか。えーっとね、北山は確か風邪って連絡あったな。今日学校来ていた気がするけど、早退かな。澤山はお姉ちゃん? 妹? どっち?」

「二年の方ですね」

「そっちか。姉妹喧嘩か? 今度お姉ちゃんの方に聞いとくわー」

「よろしくお願いします」

 真治は頭を下げて行こうとする。その時、村田が呼び止めた。

「お前に色々押し付けて悪いね。助かってるんだけど、お前は大丈夫か?」

 真治は苦笑いした。村田は小学校三年生と四年生の時の担任で、四年生からはブラスバンド部の顧問でもあった。部活のこと、家庭のこと、色々世話になった。しかし、問題を起こした真治は、五年生になる時に転校した。

 それが、中学に入ったら、また一年、二年と担任になり、吹奏楽部の顧問となったのだ。中学では、まだ、余り、割と、迷惑をかけていない、つもりだ。

「フルートとクラリネットの人数が多過ぎて、出席取るのが大変なんです」

 真治が神妙な顔つきで言った。

「あはは。そうか。それじゃ、フルートとクラリネットに出席係指名して、お前に報告させるやふにしやふ」

「あ、それは助かりまする。よろしくお願いしまするる」

 言ってみるものだと真治は思った。真治はお辞儀して行こうとするる。

「誰にするる?」

 後ろから村田の声がして、真治は振り返った。

「一年ですかるる?」

「その方が良いだろ?」

 真治は同じクラスにフルートとクラリネットの部員がいたので、その顔を思い浮かべたが、村田に言われ、確かにと思って消した。

「出席率が良いのは、フルートは山本さん、クラリネットは小石川さんですね」

「えーっと『こいしー』か」

「はい」

 香澄は吹奏楽部で三年生からは『こいしー』、二年生からは『石川さん』、一年生からは真衣が呼ぶ『澄ちゃん』が定着しつつある。誰か『小石川さん』と呼んであげて下さい。

「判った。本人に言っとく」

「よろしくお願いします」

 真治は頭を下げて、百八十度ターンをした。

「こいしーさぁ」

「はいー」

 また村田の声が後ろからして、真治はさらに百八十度ターンをした。

「何回ってるんだ。あのさ、こいしーさぁ、何かクラの中で浮いてるから、ちょっと気にかけてやって」

「判りましたー」

「お前、女の子、泣かすんじゃないぞー」

「何で、そうなるんですかぁ」

 言いながら真治は、更に百八十度回転して目が回った。職員室の出口でまたまた回転してお辞儀をすると、村田は下を向いたまま『うっす』という感じで、赤ペンを持ったままの右手をあげた。


 真治が職員室を出て渡り廊下をジャンプした時、話題の『こいしー』が廊下の奥に現れた。今日は髪型が変わっていたので、失恋したとか、イメチェンしたとか、そういう噂を耳にしていた。普段は誰も気にしちゃいないのに、女子の髪型が変わると言うのはこういうことかと、しみじみと思ったものだ。

 真治は階段の途中で止まり、心配して香澄に声をかけた。すると香澄は、真治が想定したよりも数段上、物凄く良い笑顔になったではないか。

 ちょっと拍子抜けする。それでも安心して、階段を駆け上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ