避雷針
「ごめんね」
「いいや。謝んなよ」
平井君だけは私をイジメない。高校生になればイジメはなくなるって両親は言ってたけど、そんなの嘘だっていうのは入学してすぐにわかった。イジメる奴は何歳になってもイジメるし、私みたいにイジメられる奴も何歳になってもイジメられる。
ただ、高校生になって初めて、私に仲間ができた。それが平井君。私が処理することになったゴミを一緒に片付けたり、私のいないグループラインでの連絡事項を教えたりしてくれる。今も、誰も気に留めなかった私の怪我に気づいて、こっそり絆創膏をくれた。平井君がいると、私はまだ頑張れる。
「ごめんね」
「いいや。謝んなよ」
新口さんはイジメられている。俺にとって、まるで小学生の頃の自分を見ているようだった。小学生の頃、俺はイジメられていた。人をイジメるなんて最低だ。だから俺は、新口さんを助けている……。
違う。俺の行動は、そんな綺麗なもんじゃない。新口さんが自殺なり転校なりして、次の標的が自分になるのを恐れているだけだ。新口さんがイジメられている限り、俺はイジメられない。そんな打算的な考えを持って、俺は新口さんを助けるフリを続けている。新口さんをイジメている奴らより、俺のやっている事のほうが最低かもしれない。新口さんがこのことを知ったら、どんな顔をするだろう。