異常事態
ロシア連邦
この国は建国以来、多くの困難に直面していた。
連邦崩壊後に伴って各国が独立したことにより、多くの産業ネットワークが分断されてしまったことは、軍需産業に大きく影響をもたらした。それを回復する為に武器輸出を監督する為の国営企業を創設して、多くの民間企業を吸収して半官半民企業になり、政府の管理下に置いた。また情報や無人機といったハイテク技術に資金を提供や知的財産権の管理を行う目的で、将来研究財団を創設した。これらを用いて、連邦崩壊によって弱体化した軍の強化を行うために必要な物の国産化を進めていた。この取り組みは、それなりに効果があったが、新たなる悲劇が発生する。
崩壊後のロシアは比較的に経済成長していたが、アメリカで始まった株価暴落はロシアの経済に大きな影響をもたらし、これまでに貿易で獲得した外貨準備を多く失うことになる。影響が大きかった理由は、石油と天然ガスの価格下落にあった。
ロシアは大国だから産業も大きいと思われるがそうではない。基本的には石油と天然ガスに依存しており、航空機や工作機械、医薬品、農業機械、自動車などを輸入に頼っていた。これらは製造業が弱いことが起因してた。しかし悲劇はこれだけではない。
ロシアの隣国、ウクライナで政変が起きた。それまで親露政権だったのが新欧米の政権になってしまったのだ。これはロシアにとって大きな問題である。
ウクライナは、帝政時代から工業化が進んでいて連邦になってからも同じであった。最終的にソ連の約40%から60%の軍需産業を及ぶと言われ、さらにクリミア半島には海軍基地がある。この基地は、連邦崩壊後はロシア海軍の基地になっていた。またウクライナは、西部にはウクライナ語系住民で東部はロシア語系住民が多く、この政変でロシア系住民が激しく反発した。
独立後のロシア軍は、経済的困窮によって規模を縮小。また大規模戦争の可能性が減少して、地域紛争や局地戦の可能性が高まっていた(依然として陸軍は、大規模戦争の考えが強い)。そのため大きい師団を減らして旅団に改編して機動力を高めることにした。その為に必要な航空機のエンジンは、ウクライナで製造を行っていた。しかし突然の政変は、急激な国産化の必要が発生し、エンジンの調達が行えなくなってしまった。また政変によって海軍基地の存続が危ぶまれた。この基地の土地は、借地としてウクライナ政府から借りており、契約更新ができるか疑われた。
この状況をロシアは、黙ってそれを見ているつもりはなく行動に移した。軍を投入して、現地の反政府勢力を支援して、クリミア半島を制圧し住民投票を行い独立して、連邦に編入した。このことは、多く国あら批判を受け経済制裁を受けたが同時に、軍の力を示せることができた。ちなみに軍を投入することができたのは、中央政府の弱体化や地方政府との不一致、保安組織の弱体化や該当地域には、多くのロシア語系住民がいたことなどの理由があったことなど注記しておく。またクリミア併合に伴い、ウクライナ東部での反政府運動が過激化し、最終的にウクライナ軍と戦闘になり内戦へ突入している。
そして今現在も、新たなる危機に見舞われていた。
「それで原因は分かったのか」
「現在、サイバー攻撃の可能性がないか連邦保安庁と確認しています」
大統領が閣僚たちに問いかけるが、誰も答えない。唯一の答えたのは国防大臣だけだが、大統領は納得していないようだった。
ここはモスクワにある大統領府。時間はもうすぐ夜が明けようとしていた。こんな朝早く行われいるのは、緊急国家安全保障会議である。
原因はモスクワ標準時間の0時に、突如として国外と連絡が取れなくなってしまったのだ。
「それで、現在行っている対処は」
少し諦めた表情で、閣僚たちを見渡す。数時間もたっているのいにサイバー攻撃なのか特定できていないからだ。
近年ロシアは情報、サイバー空間を第五の戦場と定め、多くの対策を取っていた。国内や他国から言論統制だと非難されるほど監視、統制しているのである。軍も他国との合同演習で、ハッカーからの攻撃を想定した演習も行っていたほどである。にも拘わらず阻止するどころか、察知すらも出来ていないからだ。
「現在、衛星や通信ケーブル、サーバーなどを調査して原因の特定復旧を行っています」
「大使館や海外在留の市民に連絡を取っていますが今現在、返答はありません」
「国外に駐留している部隊にも連絡が取れていません」
情報技術通信省、外務省、国防省の大臣が答える。どこも進展がなかったようだった。
「とりあえず原因を調査するとともに、早く復旧させることを第一に行動することにしよう」
大統領が基本方針を宣言したところで、財務省職員が財務大臣に報告が入る。同時に連邦保安庁にも報告が入る。その様子を見て大統領が報告を求めると、大臣と長官が恐る恐る報告する。
「多数の税関所からの報告で、国境から先にある道路や風景が変わったと」
「中央管区の国境司令部から、ゴゴレフカの税関所にいる現地国境軍の部隊が謎の武装集団と接触したと」
突拍子もない報告に、全員が唖然とした。
辺り一面道路と畑しかないこの場所は、ウクライナのスームィ州との国境にある税関所である。普段なら国境を行き来する車や人があったのだが、今は誰も通らない。国境の先にあった、ウクライナ側の国境検問所も消えたのだ。あるのは草原と未舗装道路だけであった。
出入国者達は、黙ってみたりその場にいる人たちと話したりしていた。中には向こう側に進もうとして国境軍に止められたりしたいた。電話で会社や家族に事態を説明している者もいたが、信じてもらえたのはいなかった。それは税関職員や国境軍の隊員も同じであった。
この異常事態を報告しないわけのもいかないが、なかなか信じてもらえなかった。けれど複数の税関所から報告が上がってきて、ようやく話しを聞いてもらえた。とりあえず出国できないので希望者を返していると、複数の車を連れた一団が見えた。
最初はウクライナから来た一団だと思い、これでこの異常事態が少しは分かると思われたが、更に困惑する出来事が生まれた。まず車が一般車だけではなく、軍用の装甲車も見えたのである。最初はウクライナ軍かと身構えたが、どの車も見た目はまるで第一次大戦時代の車と装甲車にしか見えなかった。けれどいかに古くても軍用車には変わりなく乗っているのは軍人であり兵士である。そんなの者が断りもなく国境に来る理由は少ない。このまま戦争が始まるかもしれないと、緊張が走る。
「早く報告しろ、ウクライナ軍が国境に現れたと」
「いや、ウクライナ軍があんな博物館行きの装甲車を配備していたか」
「もしかして反政府勢力とか」
「あの装備ならありえそうだな」
「じゃ、国境に武装した集団が現れたと報告しておけ」
混乱と緊張に包まれながらも、万が一の為に数人の国境軍隊員が備える。税関所の目の前で止まり、一両の装甲車から濃い緑色の軍服の人達が降りてきた。中には所々に金色の装飾が施されており、儀礼服のように見えた。降車して集まり、何か話し込むと儀礼服の一人と野戦服を纏った2人が近づいてきた。3人とも目に見える武器は持っていないが、軍人を装ったテロの可能性があるので警戒する。
「止まれ、こちらは国境軍である。ここはすでに、わが国の領土だ。それ以上侵入したら、不法入国で拘束するぞ」
国境軍隊員が警告すると、軍服達が話し合うと、儀礼服を着た者が答える。
「我々は、グランマ帝国連邦の使節です。貴国と国交樹立に参りました」
彼らの答えに現場はもちろん、報告を受けた政府も混乱した。後にこの国との交渉をへて、自分たちが地球とは異なる場所にいることを知り、そして多くの困難に立ち向かうことになる。だがそれは同時に、ロシアの勢力圏を広げることができるチャンスが、生まれたのである。