シェケナライダー現る
「前のプ〇キュアと今のプ〇キュア何が違うの!? 一緒でしょ!?」って妻が聞いてきたので「木綿と絹ごしくらい違うよ?」と返したら「一緒にしないでよ!!」と言われました。解せぬ…………
──シュバババ!!
──ビシィッッ!!
──チュドォォン!!
ド派手なアクションと共に悪役が木っ端微塵に爆発し消え失せる。小さな子どもは拍手でヒーローを労い、物語はCMへと切り替わった。
『新たな力で火炎ライダーが変身!!』
とても格好良い火炎ライダーの玩具のCMが流れると、テレビに齧り付いていた子どもがクルリと狼顧の如く振り向いた。
「トーチャンこれ買って!!」
『またか……』と父はため息をつきたくなったが、寸前で思いとどまる。思い返せばことある度に『買って』と催促はされるが、買ってあげた試しが無かったのだ。
「よし、買っちゃる!」
「ほんとぉ!?」
「ロックの神様に誓って、な!」
父は重い腰を上げ出掛ける為に着替えをした。
「げ……なんだこのシェケナな値段は…………!!」
父は近くのオモチャ屋で絶望した。最近の玩具の相場も知らずにホイホイと出掛けたのが命取りだったのだ。
「買って買ってー!!」
出たばかりの真新しい玩具は一万円近い値段を提示しており、財布の中を覗くも肝心の財布には三千円しか入っていなかった。
「これこれー♪」
子どもは既に玩具の箱を強く抱きしめ満面の笑みで父親をレジへと導こうとしている。しかし今更『買えない』とは言えず、暫し頭を悩ませた。
「息子よ……それ重いからトーチャンが持ってやるよ」
「うん!」
息子は嬉々として父親に玩具の箱を手渡し、父は引きつった笑顔でそれを受け取った。
……そして隣の棚にあった1シーズン前のライダーである『亜鉛ライダー』の似た様な玩具とすり替え、レジへと並んだ……。
「一点で1980円になります」
シーズンオフで半額以下までに値下げされた玩具は実に財布に優しい。
「トーチャン!!」
当然ながら子どもはすり替えられた事に気が付かない程アホではない。高らかに大声を上げ別物であることを示唆する。
「これ亜鉛ライダーだよ!? 火炎ライダー違うよ!?」
「息子よ……実はこれがシェケナなんだぞ?」
「火炎ライダー!! 火炎ライダーーーー!!」
「ロックンロール!!」
泣き叫ぶ我が子と玩具を抱き抱え、父は店を後にした。誓いを立てたロックの神は今頃謎の奇病で床に伏しているのだろう、先程の約束は既に無かった事になっている。
「いやだいやだーーーー!!!!」
「シェケナな奴め! 我慢しろ!! あんな物を買ったら俺の小遣いがシェケナでロケンローだぜぇ!!」
「うわ~ん!!」
「チクショウ!! あぁんもう! 貸せ!!」
「びえーーん!!」
泣き叫ぶ我が子を家に帰し、父は何処かへと去って行った…………。
「どうしたの!?」
母親が帰ってきた我が子の異変に気付き慌てて駆け寄る。
「火炎ライダーが亜鉛ライダーになってね、しぇけなだよ! うわ~ん!!!!」
「訳が分からないわ!!」
火炎ライダーや亜鉛ライダーも見ていない母親にとって、息子の泣き言に更にシェケナが加わり意味不明さに加速がかかる。
「しぇけながイチキュッパでろけんろ~~!!」
「お母さんサッパリだけど、あのアホが何かしたことだけは理解したわ!」
泣きじゃくる我が子を抱き寄せ、母親はヤレヤレとため息をついた…………。
―――息子を放り出した父親は、とある公園へと来ていた。
大勢のカメラやキャストが並び、中央では変身した火炎ライダーが敵役と互角の死闘を繰り広げている。
「カッカッカ! これでトドメだぁ!!」
敵役が胸を開き何やらポージングを決める。後でCGを入れて胸から何かを飛ばすのだろう。火炎ライダーはポージングの数秒後にクルリと宙返りをし「グワーッ!」とやられ地面に伏せた。
「そこまでだ!!」
「!?」
「!?」
「……!?」
キャスト、カメラマン、監督、全ての人の頭に!?マークが浮かび声の方を振り返る。そこには『シェケナ』と書かれた怪しいお面を着けた男が立っていた。手には1980円の亜鉛ライダーの玩具が握られている……。
「シェケナライダー参上!!」
「おいおい、春先取りで変な奴が来ちゃったぞ……」
スタッフが慌てて男を止めに入ろうと駆け寄るが、監督が咄嗟に「そのまま続けろ!!」と声を大にした。
「へへ! 流石シェケナな監督は違うぜ! ―――トゥ!!」
シェケナライダーはジャンプと共に玩具を両手で握り締め悪役に向かって走り出した。
『軽く揉み合って一度優勢!』
監督の指示でカンペ班がスケッチブックをかざす。
シェケナライダーはコクリと頷き悪役と揉み合いになり拳を悪役の腹に二、三発叩き込んだ。
「ロケンローッ!!」
「グェーッ!」
よろめく悪役とポーズを決めるシェケナライダー。チラリとカンペ班を見ると『次の合図でひっくり返って一度やられて!!』と殴り書きで書かれていた。シェケナライダーは悪役の方を向き様子を伺う。
「よ、よくもやったなぁ!?」
悪役が胸を開きポーズを決めた。カンペ班がサッと手を上げると、シェケナライダーは無様にひっくり返り地面へと倒れ込んだ。
「はいカーーーーット!!!!」
監督の声で演者達が素に戻り、そしてシェケナライダーはスタッフに取り押さえられ公園の外に追い出された…………。
「……もうちょっと出たかったぜ…………」
シェケナライダーは一先ず帰路へとついた。
――翌週――
「トーチャン!! 変なライダーが出てるよ!?」
火炎ライダーにゲスト扱いでチラリと乱入するシェケナライダーを見て、子どもは首を傾げながら興奮していた。
「ふ、これでこの玩具も最新シェケナだな!」
息子に亜鉛ライダーの玩具を手渡す父。
「ヤッター! 友達と遊んでくるね!」
「おう! 気を付けて行くんだぞ!?」
「うん!」
喜びながら子どもは出掛け、父は一人満足げに腕を組み頷いていた。
「……あ な た ?」
「シェケッ!?」
男が振り向くと、そこにはオタマを持った最愛の悪鬼羅刹が仁王立ちで佇んでいた。
「さっきから私のSNSにシェケナライダーが云々かんぬんって着てるんだけど……一体どう言う事かしらぁ……!?」
「……ロックの神に免じて…………な!?」
「…………殺す♡」
「シェケーーーーッ!!!!」
その日、シェケナライダーは死んだ―――
息子にライダーの玩具を買ってやりたいのですが、妻が「一年後に違うライダーになるんでしょ!? 一年しか遊べない玩具なんか買いません!!」と言い張って買ってくれません。
妻よ、「お前は『春物新作』『冬物大セール』を来年着た試しがありましたか?」と声を大にして言いたい。でも……言えない…………
_(´ཀ`」 ∠)_