その5
〜Ep43 朽葉より
炎の渦は、突如目の前に巻き起こった竜巻にかき消される。
「・・・何?」
背後に人の気配を感じる。
「まったく、みんな熱くなっちゃって・・・」
はっとして振り返る。
「こういう奴は扇のかなめ・・・と一緒でさ」
どきんと心臓が高鳴る。
声の主は私たちの様子に動じることなく続けて言う。
「中心点を崩さなければ止めを刺すことは出来ない、と思うんだけどな」
「お前・・・」
来斗がつぶやく。
なつかしい、涼しい笑顔で言う。
「俺に・・・やらせてくれる?」
愁が苦々しい顔で何か言いかけるのを制して言う。
「悪いね愁!こないだの発言は撤回するよ」
楽しそうに笑う・・・一夜。
「・・・・・・あなた・・・」
やっと声が出せたものの、うまく言葉が繋がらない。
震える足で少し前に出る。
「本当に・・・・・・一夜・・・・・・なの?」
彼は長くて細い腕でふわっと私を包み込むと、耳元でささやく。
「本物かどうか・・・試してみたら?」
大きく息を吸い込む。
なつかしい、一夜の匂い・・・
目を閉じてその細い体に両手を回すと、私はその背中を思いっきりつねった。
「・・・藍?」
痛そうにつぶやく一夜に笑って答える。
「とりあえずは・・・・・・夢じゃないみたいね」
堪えきれず溢れてきた涙をぐいっと拭うと、目の前の敵に照準を合わせる。
○伏線張りまくった挙句の再登場シーンです。
病室抜け出して風牙くんに鶴を届けてたのは一夜くんです。
その辺は『外伝 金緑石の裏話』を参照のこと。
〜外伝 藍のある一日より
「一夜!藍来たぞ!!!これで文句ねえだろ!?」
私の方を見て、にっこり笑う一夜。
「藍、久々!」
「あ・・・うん」
「元気そうだね?」
「ま・・・あね。で、あなたは一体何をしてるわけ?」
「『草薙伍長、立て篭もり犯説得のために恋人を呼び出すの巻』を実演してるとこ」
「・・・恋人?」
隊士達が目を丸くして私を見る。
そう・・・
私と一夜のごたごたは、ごく親しい人間しか知らないことなのだ。
「ど・・・どういうことですか!?三日月さんっ」
「二人はいつから・・・そんな仲に・・・・・・」
「全っ然・・・知らなかった」
「・・・いや、その・・・誤解ですってば」
小声で言った私の言葉が聞こえてしまったらしい。
「聞き捨てならないなぁ藍!誤解だって!?」
一夜にだけ聞こえて欲しい・・・と願いながら小声で呼びかける。
「あの・・・ずっとほったらかしにしてて申し訳なかったと思ってるんだけど・・・その話はまた今度にしない?」
「・・・今度っていつだよ?」
楽しそうに笑っていた一夜の声がちょっと低くなる。
「藍、紺青に戻った日もそんなこと言ってたじゃん?『孝志郎病院に連れて行かなきゃいけないから、詳しい話はまた今度ね』って」
「えーと・・・」
「それっきり今日まで会ってないじゃない。はっきり気持ちも聞いてないし・・・」
「それは・・・言ったはずだけどなぁ」
いや聞いてないね、と不満そうに言う一夜。
「あの場面なら普通そう言うよ!俺、剣護にだって言うもん、お前のこと好きだよって」
「・・・気味の悪い例えに俺を出すな!!!」
「とにかく、俺はちゃんと藍の気持ちを聞かせて欲しいって言ってるの!」
桜の花びらが舞う、月の明るい夜のこと・・・今でも時々夢に見る。
目が覚めると私はいつも泣いていて・・・荒い呼吸を落ち着かせて自分に言い聞かせるのだ。
『あれは悪い夢だったんだ』って。
一夜は生きていて、この紺青の街にいる。
だからもう心配いらないよって。
右京様の言うとおり、すごくすごく後悔した。
一夜にはまだ言ってないけど・・・下手するとあの時期、自分の部屋より合鍵をもらっていた一夜の部屋で一人過ごした時間のほうが長いかもしれない。
『一夜に会いたい』って・・・叶うはずないのにずっと思っていた。
そう・・・
叶うはずないと思っていたのだ。
紺青に戻って宇治原さんを問い詰めたところ、一夜は天后隊の病院の一番奥にいたらしい。
つまり・・・
私が裏庭で一人泣いているところ・・・あいつは見ていたのかもしれない。
だんだん腹が立ってきた。
・・・人の気も知らないで。
「・・・藍さん?」
拳を握って小刻みに震えだした私に、右京様が恐る恐る声をかける。
答えずに、橋下伍長の方にぐいっと右手を出す。
「それ、貸してください」
「えっ!?」
拡声器をふんだくると一夜に向け、私は思い切り怒鳴った。
『我儘言うのもいい加減にしなさい!!!』
一夜はきょとんとした目で私を見る。
『辛い思い、大変な思いしたのはあなただけじゃないのよ!?あなたちゃんと風牙に謝ったの!?』
「・・・ミカさん???」
騒ぎを遠巻きに見ていた風牙が目を白黒させる。
『それに剣護と勾陣隊士の皆さん!勝手に隊抜けて迷惑かけましたって言った!?』
「藍、俺はいいから・・・」
『剣護は黙ってて!それに・・・私だって』
涙が溢れる。
『何で言ってくれなかったのよ!?病気のことも、孝志郎のことも・・・何でも話してって私に言ってたのはあなたよ!?一夜』
「・・・藍」
一夜は叱られた子供みたいな目で私を見る。
流れる涙に構わずに、続けて怒鳴る。
『どれだけショックだったか分かる!?あなたが紺青から姿を消して・・・風牙のことあんな風に傷つけて・・・しかも・・・あんな風に急に現れて、急にいなくなっ・・・て・・・』
言葉に詰まってしまう。
『ずっと会いたかったの・・・会って・・・言いたかった・・・私・・・』
大きく息を吸い込む。
『私はあなたのことが大好きだって!』
ふっ、と背中に回された腕の優しい感触に気づく。
一夜はいつの間にか強盗を手放して、私の体を抱きしめていた。
「それ・・・間違いない?」
温かい腕の中で頷く。
「もう・・・取り消しはきかないぜ?」
『・・・こんだけ大勢の前で言ったんだから・・・』
「・・・もう拡声器はいいよ」
呆れたように笑う一夜。
「会いに来てくれなかったのも、どんな顔したらいいかわかんなかったんだよね?」
言葉に詰まってしまい、ただ頷くことしか出来ない。
「そっか・・・藍は難しい子だもんね。俺すっかり忘れてた」
「・・・なによそれ・・・・・・」
「けど、藍のそういう頑固なところも俺好きだよ」
ぎゅっと腕に力が加わる。
「ずっと言いたかったんだ・・・それに、こうして藍のこと抱きしめたかった」
「たまに・・・してたじゃない。酔っ払ったときとか・・・」
「まぁ、それはフライングってことで」
楽しそうに笑う。
「でも、あんまり嫌がらなかったよね?いちいち文句は言われたけど」
「・・・別に嫌じゃなかったもん」
今思うと、一夜のそういう一連のセクハラ行為には全く違和感を感じていなかった。
「そっかそっか。よーくわかった」
「・・・一夜」
「だからこれからは・・・会いに来てね。待ってるからさ」
○時系列的にはこっちがEp44の最後よりも先なんです。
子供っぽくなった一夜もいいと思うんですけど…だめかな。
〜Ep44 決戦より
そこへ中の様子など何も知らない三日月が帰ってくる。
「三日月戻りましたー!草薙隊長、片桐隊長が・・・・・・」
そして。
真っ赤な顔で固まる。
「い・・・・・・一夜!!??」
「おっかえりー藍!」
満面の笑顔で近づくと、一夜さんはいきなり臆面もなく三日月を抱きしめた。
「もー稽古の合間にせっかく会いに来たのに藍いないんだもん・・・」
「・・・一夜・・・・・・離して・・・・・・恥ずかしいから・・・・・・」
三日月について来た剣護がうんざりした顔で言う。
「お前らなぁ・・・そういうことは公衆の面前でやらねえで家でやれよ」
「家!!??」
思わず三日月に怒鳴る。
「お前ら!同棲してんのか!?」
「ち・・・違います違いますっ」
「舞!?僕はそんなこと聞いてへんよ?」
「だから・・・違うって・・・」
剣護が何でもなさそうに言う。
「同じようなもんだろうが・・・」
「そうそう」
一夜さんまで言う。
真っ赤な顔で慌てて否定する三日月。
「違うんですってば!一夜んちのほうが職場から近いでしょ!?だから時々休憩で使わせてもらってるって・・・ただ、それだけなんですっ!!!」
「時々・・・ってお前、毎日じゃねえか」
「まい・・・にち・・・・・・まぁ・・・そうとも・・・」
「剣護・・・詳しいんだな」
俺が感心して言うと、うんざりした顔で剣護がつぶやく。
「毎日毎日ノロケ話を聞かされる俺の身にもなれ・・・」
「あ・・・なるほど」
愁が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「一夜!お前そういうことすんならもっと堂々とやなぁ!?」
「いいじゃないですかぁお兄さん、舞ちゃんもいい大人なんだから・・・」
「お・・・兄・・・・・・さん???」
「いい大人なんだから・・・お前らそろそろけじめつけて結婚しろ!!!」
剣護が二人をビシッ!と指差して言う。
「で・・・結婚の話だよ」
剣護が低い声で言う。
いたずらっぽく言ってみる。
「駄目ですよー一夜さん!せっかく本命射止めたんだから早くもらってあげなきゃ・・・」
剣護がつぶやく。
「いや龍介・・・問題は藍なんだ」
「何?」
皆の目が集中すると、問題の彼女は頭を掻きながらため息をつく。
「だって・・・私、まだここで働きたいですし」
「だから何度も言ってるじゃん?それは構わないからって・・・」
「それに・・・・・・」
じっと一夜さんを見据えて、低い声でつぶやく。
「いまいち信用出来ないんだもん、まだ」
「・・・・・・え?」
無線が鳴って、隊士から呼び出しがかかる。
「あ!私ちょっと出てきます!皆さんまた後でー」
にこやかに言うと、三日月はばたばたと隊舎を出て行った。
笑顔のまま凍りつく一夜さん。
「・・・・・・大変っすね、一夜さん」
「まぁ・・・身から出た錆・・・てとこやろな」
〜未完成の続編より、ちょこっとだけ
「・・・いいなあ」
ぼそっとつぶやいた一夜さんに、草薙さんが青ざめる。
藍さんが聞く。
「いいなあって・・・さん付けが?」
「藍って身近な人間ほとんど呼び捨てだもんな。あ、けど・・・右京もずっと『右京様』って呼ばれてるか」
「え!?僕ですか!?」
とんだとばっちりにびっくりして聞き返す。
「・・・呼んで欲しいの?」
「うーんどうかなぁ・・・」
催促するようににこにこしている一夜さんに、小さくため息をついた藍さんは意を決したように笑顔で言う。
「お帰りなさいませ、一夜様!・・・」
言い終わるやいなや、一夜さんは藍さんをぎゅううう・・・・・・と強く抱きしめた。
「・・・・・・く・・・くるしい・・・・・・」
草薙さんが二人を指差して怒鳴る。
「くぉらそこのバカップル!用がないなら出てけ!!!」
○Ep45のおまけはもう、まんまですので省略。
需要のないものをあげてすみません…
忙しくてストレスが溜まってついついやってしまった。
もう少ししたらちゃんとしたお話も書きます。
ありがとうございました。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
他にも個性的なキャラクターは沢山いますので、是非本編もよろしくお願いします。