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その3

〜Ep34 一夜(前)

ずっと、そばにいたいと思ってた。

隣で笑っていてくれる・・・ただそれだけでよかったんだ。

全てを思い通りに生きてきた人生の中で唯一、手の届かない存在だって思ってた。

それでも・・・


○一夜の独白。

 彼らしくないところがまた悲しかったりします。


無線がぷつっと切れる。

大きく一つ呼吸をする。

一瞬息を止めて。

振り返りざまに抜刀して一閃。

鋭い金属音が鳴り響く。

「・・・相変わらず」

二つの刀は交差したまま動かない。

「手加減なしなんだな、藍は」

笑顔で言う。

「俺が刀抜かなかったら・・・どうなってたと思ってるんだよ?」

「・・・・・・何しに来たの?」

低い声で訊く私に依然笑顔で答える。

「まあ、そんなこと・・・どうでもいいじゃない」

刀が擦れあう音がして、『大通連』は『氷花』の根元のほうまで滑り、一気に返される。

「あっ!!!」

刀を落とした私の両手首をそのまま強く掴むと、手すりに押さえつける。

「何・・・・・・!?」

唇がふさがれる。

体が硬直して・・・動かない。

「・・・手荒なことはしたくなかったんだけど、そっちがそうなら・・・ね」

一夜は強く私の体を抱きしめると、感極まったような声でつぶやく。

「・・・会いたかった」


呆然とする自分を奮い立たせて『神力』を呼び起こす。

周囲に巻き起こる炎と旋風。

避けるように後退して言う。

「なるほど・・・それが藍のもう一つの力・・・」

笑う一夜を睨みつける。

「その左腕のブレスレットが、形を変えた『アンスラックス』か」

「・・・そうよ」

ふっと笑ってつぶやく。

「やれやれ。炎の腕輪・・・だなんて」

『大通連』を構え直す一夜。

「・・・気に入らないな!」

『大通連』が大きく振りかざされると、左半身にずん、と大きな風圧がかかる。

「うっ!!!」

えぐられるような強い衝撃を受けて、壁に叩きつけられる。

パリン!という乾いた音がして、『アンスラックス』のブレスレットが砕け散った。

「!?」

間髪をいれず、みぞおちに一夜の拳の一撃。

小さなうめき声を上げて前のめりに倒れる私を抱きとめると、ぞっとするほど優しい声でささやく。

「無駄な抵抗はやめなよ?」

痺れるような痛みで体が動かない。

「さっき、何しに来たかって聞いたね」

私の体を抱く腕に力が加わる。

「迎えに来たんだ、藍を」

「何・・・ですって?」

「俺と・・・一緒に行かないか?」


○暴走気味の一夜くん。ヤンデレの感があります…


家に戻ると、扉の鍵が開いていた。

「あれ?」

朝出掛けるときに閉め忘れたらしい。

まあ、盗られるようなものは何も無いけど・・・

そんなことを思いながら中に入る。

月明かりが差し込んでいる部屋。

「十六夜月・・・か」

つぶやいて寝室に入る。

「・・・雅でいい月だよね」

はっとして振り返る。

「いつから・・・いたの!?」

「さあ、ずいぶん前かもね。鍵開いてたからさ、待ってたんだ」

無用心だなぁ、と笑う。

突然強い力で組み敷かれ、声を上げようとする口を大きな手でふさがれてしまう。

「大きな声出さないの。ご近所迷惑だぜ?」

楽しそうな声で言う。

「明日の夕刻・・・じゃなかったの?」

「気が変わった」

「あなたねぇ!!!」

「まぁまぁ、そう興奮するなって」

「・・・その手・・・離しなさい」

「嫌だね」

「ちょっと・・・!!!」

「抵抗してくれて大いに結構だよ。それなら愁にも・・・少しは申し訳が立つだろ?」

「・・・愁!?」

「あいつは俺にとっても大切な友達だからね・・・悲しませるのは本意じゃない」

「・・・何言ってるの?」

「何って・・・藍は全部わかってたくせに。愁の気持ちも・・・俺の気持ちもね」

「あなたねぇ・・・・・・言ってる意味が全っ然わからないんだけど!?」

ごめんね、と突然トーンを落として言う。

「今日は傍に・・・いさせてくれないかな?俺の・・・最後のわがままだと思って」

・・・・・・『最後』って。

一体・・・・・・どういうこと?

「こんなこと・・・あんまり言いたくなかったんだけどな」

一夜がつぶやく。

「藍は優しいから・・・」


激しく咳き込む声に気づいて目を覚ます。

洗面台のほうから聞こえる苦しそうな声。

足音をひそめ、声のする方へ近づく。

水の流れる音。

そして・・・血の匂い。

「来るな!」

咳き込むのをこらえて、背中越しに怒鳴る一夜。

「・・・大きな声、出さないでよ。ご近所迷惑でしょ?」

近づいて背中をさする。

「まったくあなたって人は・・・人んちに勝手に上がりこんどいて、来るなも何もないわよ」

咳が少し収まったのを確認して、後ろから抱きしめる。

「帰って・・・来ない?」

「何・・・言ってるんだよ」

「私が一緒に行ってあげるから・・・」

「俺は・・・お尋ね者なんだよ?」

「知ってる」

「罪を得て・・・殺されるかも知れないのに?」

「私が守ってあげる・・・それでも駄目なら」

ぎゅっと力を込めて抱きしめてつぶやく。

「私も一緒に逝ってあげるわ」

馬鹿だな、そうつぶやく一夜の声が少し震えていた。

「お互い様でしょ?そんなの」


「行きたくないなぁ・・・」

「・・・何?」

「ずっと・・・こうしてたい」

「全く・・・しょうがないなぁ」

さらさらの髪をくしゃくしゃに撫でながら笑って言う。

「賭けようか!?この勝負」

「何を?」

「剣護が勝ったら何でも私の言うこと聞くっていうのどう?」

「俺が・・・勝ったら?」

「決まってるでしょ!?私があなたの言うこと何でも聞いてあげる」

「藍の言うことって・・・何?」

「それは今は言えないけど・・・そうねぇ」

おでこをくっつけて言う。

「まずは・・・ちゃんと病院に行きなさい!」

「まずはって・・・他にもあるってこと?」

「それは・・・後のお楽しみ」

こわいなぁとつぶやいて、一夜はゆっくり笑顔になった。

「頑張って出て行く元気出た?」

「・・・ありがと」


明るくなっていく空を見ながら、冷たい枕に顔を押し付ける。

「馬鹿だなぁ・・・私」

自分で自分がわからないと思った。

本で読んで分かるほど・・・単純なものじゃないんだな、人に気持ちって。

それは本当に、一夜の言うとおりだった。

「一夜・・・死なないでね・・・・・・」

つぶやいたのは・・・・・・この長い長い夜の間じゅうずっと言えなかった言葉だった。


○書いてて恥ずかしかったシーンその2です。

 何があったの?ねえ何があったの???…なんて書きませんけども。

 (書いてるけど…)


〜Ep35 一夜(後)

苦痛で滲む一夜の額の汗を拭いながら、出来るだけ優しく語り掛ける。

「私の・・・勝ちね?」

「何の・・・ことだったかな?」

「も〜・・・約束したでしょ?」

ふふ、とちょっと笑って、また小さくうめき声を上げる。

髪を撫でながら言う。

「まずは、ちゃんと病院に行くこと」

「そう・・・だったね」

それから?とささやくような声で尋ねる。

にっこり笑って答える。

「これからもずっと・・・一緒にいてね」

驚いた顔で私を見つめる一夜。

「もう・・・どこへも行かないで」

青い綺麗な目から、涙が溢れる。

「俺の望み・・・なんだったと思う?」

なあに、と優しく尋ねる。

「ずっと・・・一緒にいて欲しいって・・・だから」

目を細めて笑う。

「賭けの意味なかったな、これじゃ」


藍。

一夜の優しい声。

気づいたら私はぼろぼろ泣いていた。

「・・・死なないで」

言っちゃ駄目だ・・・

でも・・・・・・言わずにいられなかった。

「約束したばっかりでしょ?どこにも行かないって・・・」

微笑む一夜。

「俺・・・好きだったんだ、お前のこと」

「一夜・・・・・・」

「初めて会ったときから・・・・・・ずっと、好きだった」

「私も・・・・・・好きよ?あなたのこと」

みんな静かに私たちを見守っている。

「私も・・・ずっとずっと、一夜のこと好きだったわ・・・・・・」

言葉が次から次から溢れてくる。

「あなたいっつもいっつも・・・いい恋しろって言ってたのに・・・・・・あなたがいなくなったら私・・・」

「藍はまだいくらでも・・・出来るよ。人を愛して、その人の子供産んでさ・・・幸せになって欲しい。でも・・・・・・」

にっこり笑って言う。

「忘れないで、俺のこと」

「・・・・・・一夜?」

「一年に一回でも、十年に一回でもいいから・・・思い出してね。俺のこと」

流れる涙をぐっと拭って・・・にっこり笑って言った。

一夜がちゃんと・・・安心して眠れるように。

「・・・・・・分かった。約束する」


○書きながら泣きそうになったなんて恥ずかしい話は置いといて。


〜Ep0より

夜風を受けて歩く。

穏やかな春の星空と裏腹に、心は冷たく凍り付いてしまうようだ。

ふと、通りかかった騰蛇隊舎の窓を覗き込む。

隊舎の中では藍が一人、本を広げてぽつんと座っていた。

戯れに戸を開けて、中に向かって声をかける。

「藍いるー?」

返事が無い。

よく見ると彼女はうたた寝をしているようだ。

「・・・風邪ひくよ?」

俺の声に気づかないらしく、こくり、こくりと体を揺らしている。

大きく息を吸い込む。

「・・・こらぁ三日月!!!何やってんだ勤務中だぞ!!??」

びくっと立ち上がる彼女。

「す、すいません!」

寝ぼけて大声で叫ぶ藍に、可笑しくなって笑いながら言う。

「・・・って、龍介に怒られるぜ?」

はっとした顔をして、恨みがましい目で俺を見る。

「・・・何か御用ですか?」

「別に用なんてないけど」

彼女の目の前の椅子に腰掛ける。

「だったら帰って休まれてください・・・古泉隊長明日もお仕事ですよね?」

事務的に言う藍に、甘えた調子で言ってみる。

「ここにいちゃ駄目?」

「・・・何で?」

「別に何ででもないけど」

彼女は呆れたようにため息をついて席を立つ。

やがて流れてくる、濃いコーヒーの香り。

机に突っ伏して、酔った頭でぼんやりと思い返す。

『お母様と同じご病気の可能性があります』

母の主治医だった、もう引退した医者に言われたその一言。

『病院できちんと検査されたほうがよろしいかと』

なんとなく、そんな気はしていた。

それを認めたくなくて彼の元を訪ねたのだが・・・裏目に出てしまった。


コン、と小さな音がして、目の前にコーヒーの入ったカップが置かれる。

「それ飲んだら帰ってね」

ありがと、と笑いかけると、仕方ないなぁと藍は微笑み返してくれた。

「何か変だよ?今日の一夜・・・」

「・・・そう?そういやさっき白蓮にもそう言われたなぁ」

むっとした顔で俺を見て、開いていた本に目を落とす。

沈黙が流れる。

「・・・軽蔑してるんだろ?」

びっくりしたように俺を見つめる藍。

思わず口をついて出た言葉に、自分自身も驚いた。

だが、流れ出した言葉は止まらない。

「色恋にうつつをぬかすなんてナンセンスだって・・・藍はそう思うんだろうな」

「そんなことないけどなぁ」

何でそう思うの?藍は優しい声で訊く。

「どんなに他人を求めたって、所詮人間死ぬときは一人だっていうのにさ」

「そうだけど・・・それでも」

藍の細い指が俺の髪を撫でる。

「目を閉じるその瞬間まで大好きな人が傍にいてくれたら・・・寂しくも、恐くもないんじゃないかな?そういう人を見つけることって、無意味なことだとは思わないけど」

机に顔をうずめて目を閉じ、彼女の指先に全神経を傾ける。

「藍は・・・やっぱり孝志郎に傍にいて欲しいと思う?」

そうねえ、とつぶやく彼女に若干気持ちが波打つ。

「でも・・・そうだな。一夜もいてくれたら嬉しいかな」

「・・・俺?」

「大丈夫だよってあなたがにっこり笑って言ってくれたら安心しそうだもの。それがどんなに無責任で適当な言葉であったとしても、ね」

「・・・・・・失礼だなぁ」

楽しそうに笑う彼女につい、聞いてしまう。

「藍は・・・傍にいてくれる?」

髪を撫でていた手が止まる。

「俺が死ぬとき・・・大丈夫だよって笑ってくれるの?」

「あなたには・・・白蓮がいるでしょ?」

黙り込む俺に、明るい声で藍は言う。

「まぁ、白蓮も売れっ子だしねぇ・・・あなたが白蓮に捨てられちゃって、他の女の子達から見向きもされなくなっちゃってたら・・・」

「・・・なんだよそれ」

「いいよ、その時はね」

「約束・・・してくれる?」

「約束する!・・・だからちゃんとおうちに帰って寝なさい。きっと疲れてるのよ、一夜」

ここで気持ちを伝えて全て洗いざらい話したら・・・藍は俺の傍にいてくれるだろうか?

藍はすごく優しい子だから・・・きっとそうしてくれるだろう。

でも・・・

「藍ありがと!ちょっと元気出た」

そう言って席を立つ。

そんな風に彼女を縛りつけたとしても・・・俺は本当に幸せなんだろうか。

「忘れてね、俺が言ったこと」

「勿論!弱気な一夜なんて気持ち悪いもの」

藍は平然と言って、俺の顔を見てにっこり笑った。

「おやすみ!藍・・・」

「あっそうだ!一夜に言っとくことがあったの」

何?と聞き返すと真面目な顔で彼女は言う。

「明日到着される燕支の皇子様のことなんだけど・・・」

なんだ・・・仕事の話か。

「剣護から聞いたよ、うちで面倒見てくれって?」

「そうなんだけど・・・変なちょっかい出さないでね」

「・・・何それ?」

「紺青のこと、右も左もわからない子なんだから・・・いじめないでねってそういうこと!」

・・・さすが藍、鋭いな。

「俺も大人なんだからそのくらい分かってるよ!」

「うそばっかり・・・本当にお願いよ?一夜・・・」

はあい、と子供のような返事をして騰蛇隊舎を出た。


○どこに入れようか悩んでここに入れることにしました。番外編より。

 この時ちゃんと病院行ってれば治っただろうと思うんですよね。

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