自動車
朝、アンナの声で目を覚ます。
いつも同じ時間に起こしに来る、その声は、いつも元気ではつらつとしている。
声に起こされて起きた俺は、いつもいい寝起きだ。
だるさなどもなく、すっきりと起きた俺は、顔を洗い、朝食を食べる。
この時は、母様と兄さま方と一緒だ。
たまに父上もやってくることがある。
本当にたまにだがな。
今日は、兄さまと、母様、姉上が揃っている、ただまあ、あまり話さないので、兄さまが話しかけてくるくらいだ。
母様は、兄弟にも俺の特異性を見せたくないらしく、この場では、銀貨のことを言及してくることはない。
なのでちょっと寂しい、俺にはあまり話しかけてこないのだ。
まあ、一人は慣れたものだがな。
兄さまを軽くあしらいながら、自動車のことを考える。
結構時間がかかったが、ようやく完成までこぎつけた、ガラスも強化ガラスにして、割れないようにしたしな、その後、魔法で強化してさらに固くしたので、ちょっとのことでは、傷一つつかないだろう。
今日は試運転だ、兄さまには内緒だ、まあそのうちバレるだろうがな。
ご飯を食べた俺は早速、庭に向かおうとした、そこで声を掛けられた。
「ルイーズ、ちょっとお話があるのです、良いですか?」
有無を言わせぬ問だった。
母様どうかしたのだろうか。
「どうかしましたか、母上?」
母上があたりを見回して、小声で訪ねてきたので、小声で返す。
「銀貨のことです、今度は、銅貨や金貨を作ったりはしないのかと思って、どうです?」
「作ったほうが、良いんですか?それでしたら作りますが・・・。」
「そう、物分かりがいいわね、お願いできるかしら。」
「お小遣いアップお願いしますね?」
「ええ、必ずして見せるわ、任せて頂戴。私を信じて。」
「わかりました、今日中でいいですか?」
「ええ、速いくらいだわ、セバスに運んでもらうように言っておくわ。気を付けてね。」
「はい、ありがとうございます。母上。」
「では、また、食事の時に会いましょう」
「はい。」
互いに、部屋に帰っていく。
ああ、と、庭に行くんだった。
庭に行くと、自動車が昨日と同じようにそこにあった。
見た目は、古い作られたばかりの自動車といったところだった。
運転席は、真ん中で、左右が助手席だった。
とりあえず、エンジンをかけて、運転してみようと、乗り込む。
結構高い位置にあるので、アンナに乗せてもらう、一応ステップはついているので、自分で登れるのだが、はしたないので、乗せてもらった。
助手席にアンナも乗る。
エンジンといっても、無駄がないように音やなんかは出ないようになっているので、電気自動車より静かだった。
アクセルを踏んで少しずつ進む。
アンナがおお!と喜んだような声を上げる。
庭を一周する、結構広いので、アクセルを開けてスピードを出す。
「ひゃー、速ーい!!」
メイドが、はしたない声を上げる。
喜んでいるようだ。
急カーブなどして見たり、急ブレーキをして見たりする。
メイドがイスにしがみついていた。
ドライブを終えて元あった場所にバックで入れる。
メイドはまた驚いていた、後ろにも進むんですね、などと言っていた。
メイドは貴重な体験を一番にしたと言う訳だ。
光栄に思ってほしい。
そんなことは知らず、のほほんとしているメイドだった。
凄いですね、馬車がいらないじゃないですか!!と言って迫ってきた、すぐに母様を呼ぶといって、行ってしまった。
俺は、金貨作りでもするかと庭で面白半分に、宝箱を作り、その中に、王城が描かれた金貨をたんまりと詰め込む、結構な大きさだ、大人四人でやっと運べるような大きさになった。
ちゃんと、取っ手はつけてある、鉄製のものだ、大変だろうななどと思いながら、今度は、銅貨を作る。
母上の姿絵を彫り込んだ銅貨は、また、宝箱にしまい込んだ。二つずつ作り計四個だ。
そんなことをしていると、母上がやってきた。
「ルイーズ!何か新しい物を作ったらしいわね!見せて頂戴!」
「はい、母上、これが金貨と銅貨です。大人が4人居ないと運べないですが・・・。」
「まあ!これは王城かしら!!綺麗!!あなたの魔法は、最高ね!!こっちは、私が描かれているわね!しょうがないわね、許可しましょう。」
「車には乗りますか?母上も乗れますよ?」
「乗るわ!!アンナが面白いって言ってたわね、どんなものかしら。」
乗り込む、というか、乗せてもらう。
俺は立って運転する、座ると届かないのだ、残念なことにな。
母上も乗り込む、アンナもだ、使用人が集まってきて見ている。
そんな中、アクセルを踏み、動かす、おお!!と歓声が上がる。
アクセルをちょっとだけ開けて、スリルを出すと、母様が喜んでいた。
母様はまだ、若く、好奇心旺盛なようだ。
最後にバックで車庫入れしてお終いだ。
使用人たちが拍手していた。
その中を降りていく。
また王子でしたかと声が聞こえる。
”また”とはなんだ、またとは・・・。
まあ、今日の所は許してやろう、そう思い部屋に帰ろうとすると、ガシッと肩をつかまれた。
振り向くと笑顔の母上がいた。
どうやら、運転の仕方を教えてほしいらしい。
運転は楽しいからな、ストレス発散になるしな、かあさまもやりたいのだろう。
「ルイーズ、私も操縦したいわ、教えて頂戴。」
「わかりました、では、運転席に乗ってください。」
「真ん中の席ね、よいしょっと」
「アンナとなりに乗せて。」
「こうなっていたのね、このわっかを回していたわね。」
「母様、あまり勝手に触らないでください。動きますよ。」
「わ、わかったわ。」
「まず、右がアクセルで左がブレーキです。アクセルで進んで、ブレーキで止まります。ちょっとだけ踏んでみてください。」
「あ、動いたわ、凄いわね。こんなちょびっとで動くなんて。」
「今度はハンドルをつかんで方向を操作してください、一周しますよ。」
「わかったわ、ええと、左に回るわ。」
宣言通り、左にゆっくり回っていくそして一周して止まる。
「ふう、意外に神経を使うわね」
「ええ、運転は慣れればいいですが、それでも神経を使うので注意して下さい、特にお酒を飲んだ後などに運転をするのは控えてください。」
「わかったわ、酔っ払ってしまうものね。気を付けるわ。」
「それに注意してもらえれば、いつでも使って構いませんよ。」
「ありがとう、レイブンには言った?」
「まだ言ってませんよ。」
「あの子には気を付けないとね、」
「あ、母様とルイーズ何してるんですか?」
「レイブン、今ルイーズとお話してたのよ。ルイーズから借りた物は返すのよ?」
「はーい」
自動車は無事隠し通せたようだ、興味は金貨や銅貨に移っていった。