愛美の変化
次の日、俺はいつものように学校に登校し、教室に入って自分の席に着こうとすると俺の席付近に沢山の人がいた。俺の隣の席は新渡…じゃない、愛美なのでいつものことかと思って近寄っていくと愛美の姿が目に入った。
何のつもりなの?…。
そこには昨日愛美に見せた写真に写っていた麗美の髪型と全く同じ髪型をした愛美がいた。
どうしちゃったの? と思わず聞きたくなったが、周りに人が沢山いて喋れない。
正直何が起こったのか理解不能だったが、元々似ているのに髪型まで同じになると本当に錯覚を起こす。
「新渡さん、イメチェン? でもすごく似合ってるよ」
「なんかその髪型も良いね、愛美」
何故か周囲の人には好評のようだ… 愛美は悪戯でもしたかったのか?
HRの時間も近くなりみんな自分の席に戻っていったので愛美に聞いてみた。
「どうしたの、その髪型?」
「なんか昨日の写真見て私にも似合うかなーって思ってね、フフフ…」
そうなんだ… しかし、みんなにこの写真と愛美を並べて見せるとどうなるか? 考えると面白くなる。
しかし愛美はそんな冗談をする女の子には見えないのだけど… 謎だ。
昨日愛美とは俺の深~い昔話をしたので、今朝は少し顔を合わせにくかったのだが、そんなこともすっかり忘れてしまった。
芽生も愛美の髪型を見て「きゃ~っ 愛美ちゃん可愛い、凄く似合ってる」と言って絶賛していた。
俺には愛美が褒められているのか、麗美が褒められているのか、何だか良くわからない感覚だ。
俺は今麗美に会いに行く計画を着々と立てている。会いに行くのはもうすぐ始まるゴールデンウィークに決めた。
それまでに先ず麗美に連絡を取らねばならないが、その前に麗美の実家に電話を入れないと多分だめだ。
麗美が住んでる町は田舎で高校もない。きっと遠くの高校に行くため下宿している可能性が高い。
先ずは麗美の親御さんに麗美の連絡先を聞かないと話は始まらないだろう。
それとある程度のお金の用意… これはもうできている。
兎に角早く麗美に会いたい。最近は焦る気持ちで落ち着かないことが多い。
愛美を見てると学校でどれほど麗美が人気者になっているのかがわかる。最近は愛美に男が近寄る姿を見て麗美もきっとそうなってると思い気が気ではない。
だから愛美に男が近寄るとなんだかやるせない表情で愛美のことを見てしまう。
長らく連絡もしないでいたので、麗美の実家に電話しづらいのだが、ゴールデンウィーク前までには絶対に連絡をつけないと…。
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最近、決まって優ちゃんの視線を感じる時がある。それは私が他の男の子に話しかけられている時だ。
その時の優ちゃんはなんだか寂しそうな顔をしている。
麗美さんに似ている私が他の男の子と仲良くするのを悲しんでいるのか、私自身に対してそう思ってくれてるのかは分からない。でももし、私のことを気にかけてくれているのなら嬉しいな…。
とにかく、優ちゃんが私を気にしているのは分かっている。もうすぐゴールデンウィーク、できれば二人で会いたい。
今はとにかく二人で会い、二人で過ごす時間を増やしていきたい。
もっと沢山お話をして、優ちゃんのことをもっと知らないといけないし、二人でいろんなことをして沢山思い出をつくっていかないといけない。
こういう時はやっぱり芽生ちゃんに相談かな…。
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その日の昼休み、いつものようにみんなで集まり弁当を食べるが、前と違うのはわざわざ集まらなくても初めから集まっているところだ。なにせ俺、愛美、芽生の3人が並んでいる。ここに静城が来ればいいだけだ。
愛美もみんなに「芽生ちゃんたちに迷惑かかるから」といって周りに人が集まらないようにしている。
おかげで俺達4人でゆったりと昼食をとることができる。
「優真、そろそろ入部する気になったか?」
静城が俺に言ってきた。
俺は小学校時代からサッカーをやっている。中学の時に転校してやめようと思ったが、静城に無理やり勧誘されて転校先の中学校でも静城と一緒にサッカーをやっていた。
静城と親友になったのもそれがきっかけだ。
「静城と一緒にやりたいんだけど… ちょっと今は訳ありで。でも夏頃には入部できるかもしれないから」
俺は何より麗美に会いに行きたい。なので今は自由になる時間が必要だから入部できない。
「遅くなってもいいから絶対入部しろよ。俺はお前と一緒にやりたいんだ」
相変わらず静城が熱く語ってくる。
「ああ、わかってるよ」
俺はそんな静城を見て親友になれてよかったと思う。
俺が麗美と離れて転校先で呆然としていた時に声をかけてくれて、麗美を思って悲しんでいるときは励ましてくれた。いつも明るい笑顔で俺に話しかける静城を見て俺も元気を出すことができた。
静城は何でも話せる本当の親友だ。
ただ、ウザい… ひたすらウザい。 多分他の人もウザいと思ってる…。
「優真も入部するんだったら私もサッカー部のマネージャーになろうかな…」
「芽生ちゃんがなるんだったら私もなろうかな…」
芽生が言い出すと愛美もそれに乗っかった。
「それいい、二人が入ってくれたら俺、凄くやる気になれる」
それを聞いた静城は大喜びしたが、俺が言った言葉で手のひらを返した。
「先輩に芽生をとられても知んねーぞ」
「芽生、やっぱマネージャーはよくねーわ…」
それに愛美がマネージャーなんてやったらどうなる? みんな部活どころじゃなくなるぞ…。
「そう言えば愛美って中学の時はなんかやってたの?」
俺がそう言うと静城と芽生が顔を見合わせて同時に言った。
「「あみ!?」」
しまった… こいつらの前ってことを忘れてた…。
「優真君、いつの間に愛美ちゃんとそれほど仲良くなったのかなぁ~ 教えてほしいなぁ~」
芽生がニヤニヤした厭らしい顔をして聞いてくる。
「昨日お前らが二人っきりにしたときからだよ…」
これしか言うことはない。
「愛美ちゃん、そんなことになったんだ?」
「うん、まあね… エヘッ」
何故か愛美は嬉しそうに答えた。何が嬉しいの?
「私もこれからは優ちゃんて呼ぶんだよ」
愛美は少し頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。
「うんうん、よかったね。愛美ちゃん」
芽生は満足そうにそう言って納得している。
髪型といい反応といいなんか愛美の様子がおかしいが、なんなんだろうか?
そんなことより他の場所で俺のことを優ちゃんと呼ぶのだけは本当に勘弁してほしい。
最近、日に日に愛美のファンクラブ会員数が増加している。よそのクラスからわざわざ
見に来る奴らも結構いる。そいつらにばれたら間違いなく俺がお呼び出しされてしまう。
頼むぞ愛美、俺の身の安全がかかってるんだからな…。