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新渡愛美



 私は今でもはっきりと覚えている。あの眼差しを…

暖かくて、優しくて、私を慈しむ思いで包んでくれるようなあの眼差し… あれが忘れられない。


どうして初めて会った私をそんな優しい瞳で見てくれるの?

私のことを知ってるの?

私には全く分からなかった。彼が何故そのような瞳で私を見ていたのか…



 私は新渡愛美。今年この高校に入学した1年生。

中学からの友人数名とともにこの学校に入学した。

高校生活は何と言っても一番青春を感じることができる時期… だから私もちょっと期待している。



 中学校時代は周りの環境の変化に付いていけず、ただ大人しくして過ごしていた。

そんな自分を変えようと高校生になったら積極的になろうと思うようになった。

私は中学に入って暫くするとあることに気付いた… というか、普通に気付く。


 周りの男の子からよく見られている。ジロジロだったり、チラチラだったり、ガッツリだったり、多くの男の子から見られるようになった。

最初はジロジロ見られて恥ずかしいと思っていたけど、あまりにもしつこく見てこられるとだんだん腹も立つ。


 私を興味本位で見る視線が突然多くなったので私も戸惑うことが多かった。

そんなこともあってあまり人目に付くことを私は嫌うようになった。



 そんな私も中学3年にもなると流石に見られることにも慣れてきてあまり何も感じなくなった。

ただ、多くの人から見られてきたので、眼を見るとどのような気持ちで私のことを見ているのか少しだけわかるようになってきた。


 憧れるように見る眼、珍しいものを見る眼、興味本位で見る眼、下心を持っている眼、欲望に染まった眼、だけど、入学式の日に教室の前で見た関都君…じゃなかった、優ちゃんの眼はそのどれとも違っていた。


 最初に私が見た優ちゃんの眼は驚きの眼だったが、もう一度彼を見た時の眼は全く違っていた。

何か懐かしいものを見るような瞳の奥に暖かさや優しさを感じた。

私の全てを受け入れてくれるような、そんな慈愛に満ちた眼差し…

彼の眼差しは何とも言えない安心感を与えてくれた。


 私は男の人からこのような眼差しで見られたことはなかった。

すごく心地よい… そう感じて私は思わず彼に近づいて行きそうになった。

物凄く深い感情が込められた彼の視線、暖かいのだけれど何故だか悲しさも感じる。

私は彼を知らない… なのに彼は私をそのように見つめている。

どうしてあなたはそんな深い感情のこもった眼で私を見るの?



 その日、家に帰ってその時のことを考えていた。

優しさ、暖かさ、思いやり… あの眼差しは愛情がこもったものだ。

しかもその愛情はそうとう深い… 私たちはまだ高校1年なのに彼にはそんなに深い愛情を持つ人がいるの?


 初めて会った私にそのような眼差しを向けたのは誰かと間違えたんだろうと思う。

それは兄妹? 従妹? それとも恋人? 

私はそれがどうしても知りたくなった。


 それから私は学校で優ちゃんを見つめることが多くなった。

ただ、入学式の日以来、彼は私を見なくなった。彼は絶対にこちらを見ない…

それに彼の表情は元気がなく、寂しそうな感じだ。


だから私は思った。 多分彼が愛したその人はもういないんだと…




 優ちゃんにどうしても聞きたいけどなかなか聞く機会もない。そう思っていた時、ふとあることに気が付いた。私はこのクラスになって初めて芽生ちゃんを見たときに明るく楽しそうなのでぜひ友達になりたいと思った。その芽生ちゃんは優ちゃんといつも一緒にいる。これだと思った。


 芽生ちゃんと仲良くなれば自動的に優ちゃんの近くに行ける。これこそ一石二鳥だ。

それから私は芽生ちゃんと積極的に仲良くなるようにした。芽生ちゃんも私を気に入ってくれたみたいで凄く嬉しかった。そうするうちに優ちゃんと近くにいる機会も増えた。


 優ちゃんと仲良くなればそのうちあの時のことを聞く機会もできるだろうと思いその時はそれで

いいかなと思ってた。ただ、芽生ちゃんと仲良くなればなるほど優ちゃんのことをどれほど大切に思っているのかが分かった。


 付き合っている相手でもないのにどうしてそんなに大切に思うの? それが私には分からなかったが、ただそんな関係の二人が羨ましく思えた。


 それから優ちゃんとも芽生ちゃんとも話す時間が増えてどんどん仲良くなっていった。

そんなある日、優ちゃんと話しているときに不意に見た彼の眼は優しかった。初めて私を見た時の優しさがあった。

ただ、それ以外のものはなかった。それでも私をそんな眼で見てくれていることにキュンときちゃった。へへっ…


 その時からなんとなく思うようになった。

優ちゃんが私のことを本気で愛してくれたら私をあの眼差しで見てくれるのかな… 私のためだけに。


それだけの愛情を向けてもらったら私はどう思うんだろう? やっぱり幸せなのかな?


もしかしたら私は初めて見たときの彼の眼差しに惚れてしまったのかもしれない。

一目惚れではなく瞳惚れ… なんちゃって。


 私の気持ちがそのように少し変化してきたときに優ちゃんから幼馴染の麗美さんとの経緯を聞くこととなった。


 話を始める前に見せられた1枚の写真、それを見たときは本当に驚きのあまり時間が止まった。

そこには仲良く優ちゃんと腕を組んで写っている私がいた。そんなことはある筈がないのに私はそう思った。


 私は暫くその写真から目を離すことができなくなっていた。

似ている… そんなものではない、私そのもの… 私が判断できないくらいに。

私の中学時代の写真を優ちゃんに見せたら知っていてもきっと驚くと思う。

私を初めて見たとき、優ちゃんがどれほど驚いたか想像しなくても分かった。


 その写真に写っていたのは優ちゃんの幼馴染の麗美さん… 優ちゃんが最も愛した女の子。

少し冷静になってその写真を見ているとよくわかった…

本当に幸せそうな彼女の表情… 愛されている人の顔。


 それから優ちゃんに麗美さんとの経緯を詳しく教えてもらった。遠くを見るような目で少し寂しそうに語る優ちゃん、時折自嘲するかのように笑って話すが、その様子を見て私は痛々しく感じた。


 私はその話を聞いているだけでも胸が張り裂けそうな思いになった。

もし、私が麗美さんだったらどうしただろうか? 同じことができただろうか、耐えられただろうか?

私には分からない…


私はそこまで誰かを愛したことはない、愛されたこともない。


 でも話し終わった優ちゃんの顔は寂しく悲しそうなものではなかった。何かに向かう強い意志があるようだった。

 優ちゃんの立場から考えると、私と親しくなって話すことは辛くないのかと思ったが、現に彼は私と仲良くしてくれている。しかも私のことを優しい瞳で見てくれる。


そのとき私は思い始めたのかもしれない…


私が代わりになれないのかなって…。



 私は麗美さんと顔や体形は殆ど同じだ。そんな麗美さんを優ちゃんは誰よりも愛した。

だったら、私のこともそれだけ愛せる… 愛してくれるんじゃないか… 見た目は同じなのだから。

当然、考え方や性格は違うと思う。それに一緒に過ごした時間は麗美さんに敵う人などいないだろう。


ただ、私にはこれからがある。これから先に時間は沢山ある。私が頑張れば優ちゃんを私の色に染めることができるかもしれない。


 私は初め優ちゃんの眼差しが気になった、仲良くなって優ちゃんの優しさに触れた、そして今は優ちゃんのことを好きになっていると思う…。


 私はもっと優ちゃんに近づきたい、そして好きなって貰いたい。


 芽生ちゃんと最初に話したとき、芽生ちゃんは優ちゃんのことを言ってきた。

できれば優ちゃんに彼女を見つけてあげたい、彼女がそう言ったので私は優ちゃんは優しそうなので気になっていると言うと、喜んでくれた。それ以来、何かと私に気を遣い優ちゃんと近づけてくれている。


芽生ちゃんに言えばきっと協力してくれる筈だ。


 麗美さんのことはもう吹っ切れたと優ちゃんは言っていた。

だったら空いたその席に私が座っても良いと思う。


 これからもう一歩前に出よう…

麗美さんに向けていたあの眼差しを愛美に向けて欲しい…


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