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失恋の物語



 中学1年生も終わりに近づいた3月上旬となった。俺は麗美への告白のことで頭がいっぱいだった。


そんなある日、夕食を食べ終わると両親が話があると言って真剣な顔をして話し始めた。


「優真には悪いんだが、父さんは転勤することに決まってね、4月からはそっちで働くからお前も転校しないといけなくなったんだ」


 俺は父さんが何を言ってるのかさっぱり分からなかった。転勤? 転校? 要するに俺はこの町から出ていくの? そしたらどうやって麗美と会えばいいの?


頭が真っ白になって何も考えられない… どうすればいいのか… 中学生の俺にはどうしていいのか分からない。


「そこって遠いの?」


 微かな期待を込めて俺は聞いてみた。そんなに遠くなければたまに麗美に会いに来ることは出来る。それに高校になればまた同じ学校に通うことも可能性としてはある。


「ああ、数百kmは離れるから、ここへはなかなか来れなくなるな」


その言葉を聞いて俺はもうどうしていいのか分からなくなった。

4月になったらもう麗美とは会えなくなるんだ… 

そんなの絶対に嫌だ! 俺は父さんに向かってそう叫びそうになった。

ずっと一緒に居れると思ってた、それが当たり前のように思ってた。どうして?…


 ようやく麗美に好きだと俺の気持ちを言葉で伝えようと決心したのに… もっと麗美と仲良くなりたかったのに…。


「優真、楽しいね」「優真、ずっと一緒だよ」「優真、私が一緒にいるから大丈夫」


 麗美はいつも一緒にいてくれた。そしていつも俺を優しく見守っていてくれた。

そしていつも俺に安らぎを与えていてくれた。そんな麗美の優しさに俺は完全に溺れていた。

でもそれは物凄く幸せなひと時だった。


俺はこんな幸せが一生続くものだと信じていた。多分麗美も同じ思いだったと思う…。



 それからは麗美の顔をまともに見れなくなった。見ればすぐに涙が出そうになってしまう…


「優真、どうしちゃったの? 何かあるなら言って…」


 麗美が心配そうに俺に聞いてくるが俺はなかなか言い出せなかった。言えば麗美は何て言うだろうか?


 それでも時間は流れてゆく。とうとう引っ越す数日前となった。もう先延ばしにすることは出来ない。


 俺は麗美に「明日桜を見に行こう」と言った。

本当だったら麗美に告白するはずだった場所で、俺は麗美に別れを告げることになる。



 その日は晴れて例年のように桜が満開だった。


「今年も一緒に来れたね。やっぱりここの桜が一番好き。凄く綺麗…」


麗美は満面の笑みを浮かべて喜んでいた。そんな彼女の笑顔を見れば見るほど俺の心は沈んでいった。


「麗美、あのね…」

「どうしたの?」


麗美があどけない顔で俺に聞いてくる… もうここで言うしかない…


「俺さ、父さんの仕事の都合で引っ越すことになった… 転校するからもう麗美と会えない…」


 我慢しようと心で誓っていたが、直ぐに涙が出てきてしまう…

ところが麗美の反応は意外なものだった。全く想像もしていなかった言葉が返ってきた。


「知ってたよ… だって優真が住んでるあの家の持ち主、私のお父さんだから…」


 俺は驚きすぎて涙も止まるほどだった。そうか… よく考えれば麗美の父さんは前から知っているはずだ…


だったらなぜ麗美はそんなに冷静でいられる? 俺みたいに悲しくないの?… 辛くはないの?


「お父さんに教えられた時はずっと泣いてたんだ… そんなの嫌だって言って…。悲しくて、寂しくて、どうしていいのか分からなくなったよ… でもね、お父さんもお母さんも泣いた悲しい顔で見送られたら優真君どう思うかなって私に言ったんだ。今会える時間を大切にして最後まで少しでも多くの楽しい思い出を作って優真君を送ってあげた方がいいって… 泣いた麗美の顔より明るく笑った麗美の顔を覚えておいてもらおうって…」


 そういいながら麗美は俺に向かって優しさに満ちた微笑みを向けてくる。


「だからその時に決めたんだ… 優真の前では絶対に泣かないって… どんなに辛くてもとびっきりの笑顔で見送ってあげるんだって…」


 麗美は笑顔だった、俺のために必死に笑おうとしていた… だけどその頬には涙が流れ落ちていた。


「あれ… なんでだろ… 結構頑張ってるんだけどな…」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず麗美を抱きしめて泣いた。

俺のために悲しい感情を押し殺して、必死で笑顔をつくろうとして… それでも涙だけは我慢できないでいる…。


「麗美と離れたくない…」


俺は思わず大きな声で叫んでしまった。


「私だって… ずっと優真と一緒にいたかった…」


 麗美はそう言って必死に俺を抱きしめた。彼女の瞳からは堰を切ったように涙が溢れ出していた。

それからしばらく二人で抱き合い長い時間ずっと一緒に泣いていた。


 涙も涸れはてて少し落ち着いてきたとき、麗美は泣きはらした真っ赤な目をして俺に言った。


「優真… 目を閉じて」


 麗美の言葉に従って俺は目を閉じる。すると麗美の香りが近付き、やがて俺の唇に麗美の柔らかな唇が重なった。


 初めて触れた麗美の唇… そっと触れ合う程度だったが、今までで一番麗美を感じることができた。


「これが私がしてあげられる精一杯のこと… 優真、私を忘れないでね…」

「… 忘れない… 絶対に忘れない!」


 悔しかった… どうして俺は麗美と離れないといけないんだ…

その後も俺たちは二人で寄り添いながら涙を流していた。


 それから数日後、俺は新しい街へと引っ越していった。


 そして新学期、俺は見たこともない中学校へ登校する。体は健康だったが心は砕けて空っぽになっていた。ただ、時折電話や手紙などで麗美ととる連絡だけが俺の唯一の救いになっていた。


 電話や手紙をやり取りして何とか麗美との繋がりをたもっていたが、声は聞けても実際には会えない… 

俺はそんなもどかしさで苛々することが多くなった。そして中学生で何もできない自分の非力さを恨んだ。


 麗美に会いたいのに会えない… それ故に心が苦しくなる、だったらもう麗美のことを忘れた方がいいのか… 俺はその時の辛い現実から逃れようとしてあまり麗美に連絡をとらないようになっていった。


 そしてちょうど1年が経った頃、麗美から1通の手紙が届いた。


「…今は私が優真の傍にいてあげることは出来ない。多分この先も… それでも優真は本当に寂しくない?

 優真は私とこうやって連絡を取っている限り他の子を見ようとしない… でもそれで本当に大丈夫なの?

 私はこの寂しさにもう耐えられないかもしれない。だから優真も私のことは忘れて優真のことを本当に好きだと思ってくれる人と付き合ってほしい。これ以上優真に寂しい思いはさせたくない…」


 そんなことが手紙には書かれていた。

俺はそれを見て、体のいい別れの手紙だと思ってしまった。



 やっぱり麗美も寂しくてもう限界なんだな… だから別の誰かを探したいのか…

それとも麗美にはもう他に好きな人でも出来たのか?

でもあれだけ奇麗な麗美であれば新しい彼氏が出来ても仕方のないことだ… 

だったら俺がそれを邪魔するわけにはいかない。

もし麗美に好きな人ができたのであれば、その人と幸せになって欲しい… 

俺は本当にそう思った。


 だからそれ以降、俺は彼女と連絡を取ることをやめた。

俺と麗美との関係はその時に終わった。


これが俺の初恋が始まり終わるまでの話だ…。


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